↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/30

#21.シーラ嬢の想い

 結局レオナルドの命令で一度は捕らえられたカール団長であったが、騎士団員達や卒業パーティーへ出ていた生徒達、特に大きく声を上げたシーラ嬢の訴えにより、すぐに釈放された。しかし、レオナルド派の臣下達が今回の問題を国王に伝えるのを渋っていた。


「そもそも彼はバターナイフすら持っていない、か弱き御令嬢に対して剣を振り上げたのですよ? どうして陛下に伝えなくて良いという結論になるのですか?」


 煮え切らない態度で話を流そうとする貴族達に対して、シーラは怒りで震えていた。


「まぁまぁ、パティンソン侯爵嬢。カール様も無事釈放され、ハインド公爵嬢達にも被害は及ばなかった事ですし、何も事を荒立てなくても......ねぇ?」


「そうですよ。せっかくの綺麗なお顔が台無しですよ?」


 国民を守るべき立場である王家の人間が、気に入らないと言う理由だけで自分よりはるかに弱い立場にいる者に剣を向けた事を、この人達は何も理解していないのだ。わかりやすく長いため息を吐くと、普段のシーラからは想像もつかないような恐ろしく冷たい目線を彼らに投げた。


「承知致しましたわ。どうせこの事はハインド公爵様から話が上がるでしょうから。貴方がたのお名前は忘れませんわ。それから、私はちょうど卒業致しましたので故郷へ帰らせていただきますわね」


 まるでゴミクズでも投げたかのように、スッパリと踵を返し歩き出す。途端に先ほどまでニヤニヤとした気色の悪い笑顔を貼り付けていた貴族達の顔が強ばり青ざめる。


「ま、待ってください! シーラ嬢! そんな別に私どもはただ何も起きていないならそれが1番なだけで......」


「そうですよ、それに故郷に戻られるなんてそんな──!」


 国税の約3分の1を担うハインド公爵の機嫌を損ねてしまったとわかれば、王家は彼らの貴族の爵位など簡単に取り上げてしまうだろう。その上彼らが青ざめた理由は他にもある。


 普通ならシーラのような小娘1人が実家に帰ったところで鼻で笑われるのがオチであるが、彼女の場合はそうはいかない。何故なら彼女の婚約者であるカール団長がなによりもシーラの事を愛しておりそれは周知の事実だからだ。


 もしも彼女が実家へ帰れば、確実にカールは剣を投げ捨てパティンソン家へ婿入りするだろう。元々カールはパティンソン家に婿入りし、シーラの地元で暮らしても良かったのだが、団長として慕われ素晴らしい剣の才能を活かす方が国の為だとシーラが残る事を提案したのだ。


 レオナルドの尻拭いのせいでハインド家から目をつけられ、王国騎士団長不在の責任まで押し付けられたら割に合わないとばかりに、貴族達は我先にと陛下へ伝えに行った。


 一気に人気が無くなり、熱を失っていく部屋にスッとカールが入ってきた。シーラが話をつけに行くと言うので廊下で待っていてくれたが、中から人が出てきたので迎えにきたのだ。長年人を走らせる事はしてきたが、自分が走る事は久し振りであろう貴族達の全速力に、苦笑いしている。


「まったく......シーラ嬢はそこら辺の外交官より交渉がお上手ですよ」


 微笑みながらシーラの柔らかな髪にそっと手を添える。シーラが髪を結い上げている時、カールは髪を崩したくないようで頭を撫でないように気を付けている。ただどうしても手は無意識に伸びてしまうようで、結局そっと添える事になるのだ。


 シーラはそのままカールに身体を預けながら、顔を見上げる。優しそうな藤色の瞳と目が合う。


「エラ様達の事を助けてくださって、本当にありがとうございます......でも、もうあんな無茶はなさらないでくださいね」


 正直最初は彼の瞳が苦手だった。奇しくも叶わぬ想い人と似た色で、彼女を思い出すから。だが今では似ているとは思わない、彼の瞳には包み込むような優しさがあり純粋な色をしていると思う。優しく肩を抱いてくれるこの手はこんなにも温かく大きかっただろうか。


 シーラは、レオナルドが咲に向かって剣を振り上げた時人生で1番恐ろしかった。そう思っていたのだが、そこにカールが飛び出して行った時、そうではなかった事がわかった。彼が剣を受け止め損ねたかもしれないと思うと、今でも身体が震えてしまう。


 カールは俯き震える彼女をそっと包み込むように抱きとめる。何よりも大切で、まるで小さな子猫を触るように。


「君に誓って傷つかないようにしよう......」


 彼が騎士団に所属していれば危険がある事は、シーラも十分承知している。それでも彼は一度言った言葉を破る事はしない。きっとこれまで以上に気をつけてくれる。ただそれだけで嬉しかった。


 彼の腕から柔らかな温もりが注ぎ込まれるようで、シーラの震えはいつのまにか止まっていた。もう少しこのまま彼の腕の中に居たいと思ってしまう自分に気づき、顔が赤くなった。それでもそのまま彼の腕の中にいると、部屋を覗いていたリリアと目があった。夕陽のようなオレンジ色の髪はサッと隠れたが、確かにここではいつ誰かが戻ってきてもおかしくない。


 名残惜しげに彼から離れると、シーラのそんな気持ちに気づいたのか気づいていないのか、彼が嬉しい提案をしてくる。


「あーもし、シーラ嬢が良かったらなんですが、帰る前に一緒にお茶でもどうですか......? とびっきり渋いお茶でも」


 心が躍り顔が綻ぶのが止められない。


「えぇ、勿論ですわ!」


 彼が差し出した腕に、自分の手を絡める。心が落ち着いていく。彼との日々はきっとこんな穏やかな幸せが続くのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。