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#12. 対話

 まだ新しい新鮮な光を太陽が降り注いでいる頃、咲は自室でドレスをどれにするかかれこれ2時間くらい選んでいた。通常なら付き合わされている者はうんざりしているだろうが、付き合っている3人は真剣だった。


「エラにはこの淡いグリーンが似合うと思いますの」


 シーラが選んだのは、ネックラインがベアトップになっており、腰の部分を大きなリボンで結んである。スカート部分は何枚もの淡いグリーンがグラデーションになって華やかだ。


「いいえ、このお花が付いているやつが可愛いと思います!」


 負けじとリリアが選んできたのは、胸元が大きな花柄でデザインされているが、マーメイドラインのスカートのフロント部分がざっくりと開いて足を見せている黄色のドレスである。


「やはり、こちらがベストかと」


 アナが選んだのはパフスリーブ型でスカートもふんわりと膨らんでいるが落ち着いた紫色でダイヤが散りばめられている。結局アナが選んたものにしたが選んだ瞬間アナが小さくガッツポーズを決めたのでみんなで笑ってしまった。


 リリアとシーラは終わったらみんなでお茶会するからねと念を押して出て行き、彼女がくるのを待った。5分も経っていないはずだが、まるで時が進んで無いかのような気持ちだった。


「レディ・シャロン様お入りください」


 ノックの音がし、扉から現れたのは柔らかな春の夜のような紺色の髪に、南国の海よりも煌めく透き通った青い瞳の娘だった。ゆっくりとカーテシーをすると、黒アゲハのようにしなやかで(つや)やかまつ毛を瞬かせながら口を開いた。


「シャロン・ローリングと申します。この場にお招き頂けたこと光栄でありますわ。ハインド公爵令嬢」


 初めて見た時は聞くことのできなかったまるで小鳥のような可愛らしい声にぼーっとしてしまう。小さく咳払いしたアナのお陰で帰ってこられたが、危うく見惚れ続けるところだった。慌てて頷くとシャロンが続ける。


「私のご紹介の前に、先日はお声をかけていただいたのにもかかわらず、名乗りもしなかった御無礼をお許しください」


 こんなに早く再開できた事が嬉しくて、まさか謝罪が続くと思わず驚いた。


「そんな......およしになって。私が急にお声をかけたのがいけなかったのですから......寧ろあんな上の方から名乗りもせずに声をかけて本当にごめんなさい」


「そんな!! ハインド公爵令嬢のお名前を知らない人などおりませんわ!!! 上級貴族の方に話しかけられて名乗らず立ち去った私が悪いのです!」


 開始早々に謝りあっている咲達に痺れを切らしたのか、アナがまた咳払いをする。自分達だけでなかったと気づいた2人がピタッと止まるとアナが助言をしてくれた。


「どうやら御二方ともお会いした事がお有りなようですし、謝罪も受けられたようですので散策に行かれては如何でしょう。今日はとても良い天気のようですから」

 

 半ば強引に外に出された2人は、気がついたら中庭の前まで来ていた。隣で赤くなり小さくなっているシャロンを見て、咲は胸が締め付けられた。慌てて目を逸らし深呼吸をすると覚悟を決めた。


 今まで沢山の女の子達を口説いてきたのだ。落ち着いて今までのようにしよう。大丈夫私ならやれるはずだ。


「シャロン嬢と、お呼びしてもよろしくて?」


「は、はい......」


 にっこりと微笑むとサッと下を向いてしまった。今度は了承を得ずに、シャロンの手をとると中庭へ歩き出した。シャロンの小さな手から、パッと彼女の体温が伝わってくる。


「私、貴方がダンスのパートナーに立候補してくださって本当に嬉しかったんですの......。それとももしかして、謝罪のためだけだったのかしら?」


 少し意地悪な返しをすると、恥ずかしそうに伏せていた顔を上げ、綺麗な瞳で見つめ返してくる。外で見るとシャロンの瞳は、太陽も空の光も吸収してどこまでも透き通った青さになる。


「そんな事......! いえ、私などがハインド公爵令嬢のパートナーになりたいなどと......」


「ねぇ、シャロン嬢。私の事、下の名前では読んでくださらないのかしら」


 こちらを見つめていた顔がふわっと赤くなる。また俯きそうになるシャロンの顎をそっと指でつまむ。


「エ、エラ様......」


 そのまま口づけをしてしまいそうになるのを堪えて微笑む。


「そんなに可愛い顔をしていたら私に食べられちゃうわよ」


 シャロンの反応が可愛くて、つい揶揄(からか)ってしまう。また薔薇のように頬を染めるのだろうと顔を覗き込むと、揶揄われたことに怒ったのか、口を尖らせている。まるで薔薇の蕾のような口に思わず目を奪われているとそっと手を握り返してきた。


「エラ様になら食べられてしまいたいと言えば、食べていただけるのですか?」


「............っ!?!!」


 照れているだけでも可愛いシャロンから、ヘビー級のパンチが放たれて今度は咲が顔を赤くする。気まずいまま、中庭の東屋に到着した。顔が赤くなっているのを隠すように下を向いたまま、咲は本題に入った。


「シャロン嬢。正式に私のダンスパートナーになっていただけませんこと?」


 ドキドキしながら本題に入ったのに、中々返事が返ってこない。不安になってゆっくりシャロンを見る。


 透き通った青い瞳がゆらゆらと揺れ、大粒の雫が静かにその柔らかな頬を伝っていた。


「ご、ごめんなさい!! そうよね!?! 急すぎるわよね!!!」


「ちが、違うのです......! っうぐ......! わ、私がっ......私なんかがエラ様のお隣に居てもよろしいのですかっ......!」


 ぽたぽたと胸元を濡らすシャロンの涙を、ハンカチでそっと拭う。こういう時の為にハンカチには常にラベンダーの香りの香水がふってある。ふわっと漂う花の香りに包まれて、シャロンはまるで妖精のように愛らしい。


 彼女の事になるとどうやら私は歯止めが効かなくなるらしい。まだ早いと分かっていても言葉が口をついて出てくる。


「シャロン嬢、やっぱり先程の言葉は訂正させてちょうだい......」

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