#13.夜の密会
「先程、私は貴方をダンスのパートナーとして欲しいと言いましたが訂正させてください。私が本当に望んでいるのは、貴方が将来の伴侶としていてくれる事なんですの!」
シャロンは大きな目を更に溢れそうなほど見開いて、微動だにしない。咲はそっとシャロンに近づき、耳打ちをした。
「今夜月が昇り、沈んでしまうまでここで待ちますわ。もし、私の気持ちを受けてもらえるのなら、この東屋にいらして──」
シャロンの返事を聞く前に、彼女の柔らか手をとり唇を落とした。爽やかな風のように咲は東屋を後にした。
「ご機嫌よう、麗しい君......」
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太陽が地平線に消えゆく頃──。
「どうしたらいいのかしら、どうしたらいいのかしら、どうしたらいいのかしら!?!!!」
東屋に続く小道の脇で、咲は座り込んで困り果てていた。咲の予定では東屋で月に照らされながら、シャロンを待つ──はずだった。
しかし、東屋にはすでに人影があった。月の光をキラキラと吸い込みながら輝く透き通った青い瞳。どう考えてもシャロンだった。
「お嬢様......」
アナは咲の情けない姿にため息をついた。月のように輝くホワイトブロンドの髪、夜の闇を吸い込んだ瞳は時折りアメジストのように煌めく。まるで月の女神のように整った美貌を持ちながら、たった1人の少女に振り回されている。
「覚悟を決めてください。呼び出しておいて待たせるなんて、淑女の名折れですよ」
アナに無理矢理立たされると、そのまま東屋の方へ押し出される。何度も後ろを振り向く度に、早く行けと手で示されてしまう。一度深呼吸をすると覚悟を決め、滑るように歩き出した。
「お待たせしてしまったかしら?」
声をかけると、途端に花を咲かせたような笑顔でシャロンは出迎えてくれる。
「いえ、私も今来たところでして......。エラ様にあのように言っていただけたので、後から来るべきだとは分かっていたのですが、エラ様を待たせるなんて申し訳なくて......」
はにかみながらそう呟く彼女は、そのまま夜の闇に溶けていってしまいそうなほどの儚さがある。こんな彼女を自分のプライドの為に待たせていた事が恥ずかしい。
俯いていた彼女は少し息を吐き出すと、スッと目の前に立った。月を背にたったシャロンはこちらからは顔が見えず、ただチラチラと光を反射した目が見えるだけになった。そのままゆっくりと跪くと、咲の手を取り柔らかな唇を落とした。
「エラ様、どうか私を貴方様の婚約者にしていただけないでしょうか。お側に居る事を許していただけるのでしたらこの身も、心も全てエラ・ハインド嬢、貴方ただ一人に捧げさせていただくことを今宵の月に誓いますわ......」
右手から彼女の熱が弾けるように伝わる。こちらを見つめる彼女の瞳は、月や星の光を受けて輝く儚い光ではなく、ギラギラとこの身を焦がしそうな眩しさを放っていた。
いつも儚くこちらの言葉に赤面していた彼女から放たれたとは思えない、力強い言葉に咲の体が熱くなっていく。まるで手から甘くて熱い蜜を流し込まれているようだ。シャロンの眩しさに眼を瞬かせながら、咲も口をひらいた。
「では私も今宵の月に誓いましょう。シャロン・ローリング貴方との結婚を」
今度は咲が彼女のうなじにそっと手を当て、顔を引き寄せた。月に照らされ、甘い香りを放つ花々に囲まれた東屋で、可憐な花と花がそっと約束の口付けを交わした。




