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5-6.ミリアの研究成果

「ではまず、良い報告から」

 エフィーリアさんの住む森をミリアさんと歩きながら話を聞く。

「まず、改良を始めた植物達ですが、ある程度の成果が出てきました」

 え?もう?早くない?

 そう思ったがこの世界には魔法がある。

 俺の魔法でも即座に森が形成される位の気持ちの悪い成長速度が出るのだから、植物の改良も早く終わるのかも。

「収穫可能な段階で他の種類の作物と掛け合わせて、収穫量が増加した作物は、キャベツ、トマト、ピーマンの三種です。今後は豆類や根菜類に広げていく予定です」

 なるほど、確かにその三種は俺のいた世界でも品種が多い。

 家庭菜園で育てやすいのもあるのか、春になってホームセンターやなんかで最初に出てくるのも大体その三種だった気がする。

「あと、人間が食事としても大丈夫な作物を一種類、発見しました。葉野菜なのですが、今は中毒になる様な成分がないか確認作業中です」

 この世界では、観察した限り、葉野菜と言えばキャベツやホウレン草みたいな葉っぱの植物を食している。

 その類いのものなのだろう。

「問題点としては魔法で無理矢理生育させているので、現状、環境に適応することが難しいことでしょうか」

 どういうことだろうと思ったが、簡単な話だ。

 夏に生育する植物を冬には育てられない。

 南国に適応した植物が北国でとれづらいのと一緒だ。

 あれ?じゃあ、温室を作れれば解決じゃないか?

 今度提案してみよう。


(む?おぉ。ドリアード殿にアレクシスか。どうしたんだ?)

 森の中に入ってきた俺たちに声をかけたのはバロンだ。

「あ、バロン。いや、ミリアさんから研究の成果を聞いてたんだよ」

(研究?あぁ、あれか……)

 ん?バロンの反応がなんかおかしい気がするが?

「おいバロン?その反応はいったい……」

「あ、ご覧ください。アレクシス様。これが最近の研究の成果です」

 ん?あぁ、ちょっとバロンの方を向いていたので反応が遅れた。

 俺はミリアさんに言われた方向を見る。


 ……なんだこれ?



 パッと見た印象は蔦だ。

 茎はイボイボの突起が出ていて、ちょっとやそっとでは食われないぞという信念を感じる。

 対して、葉は小さめだ。

 赤い手のひらサイズの実をつけている。

 特徴的には俺の知るトマトのそれなんだが……。

 なんというか、でかい。

 俺の感覚では10メートルほどの高さまで蔦を伸ばしている。

 薬草畑の隣に新しく畑20メートル四方ほどの作ってあるみたいだけど……。

 びっちりと蔦が埋め尽くしているせいで、まるで植物の部屋のようにも見える。

 支柱の代わりなのか、四隅と列状に並べたそれなりの太さの丸太が見える。

 その丸太が蔦にからめとられ、中ほどでは粉砕とまではいかないものの、圧縮されて無残な状態のものもある。

 どんだけ絡みつく力が強いのだろう。このトマト。





 トマト、そうトマト。

 この世界ではトマトが普通に存在している。

 食事にも出てきていたし、トマトはトマトとして翻訳されている。

 俺の居た世界ではトマトは確かジャガイモなんかと同じ南米、アンデス産だった気がするが。

 実はこの世界これ以外にもおかしなところが色々ある。

 ジャガイモっぽい芋も普通に存在しているが、なぜかこちらは『ガル芋』『ジル芋』と表示される。

 まぁ、この町の人口、8万を超えているとシャルロッテさんの授業の最中に言っていた気がするし、そういう大量に取れる作物があってもおかしくはない。

 ……そんなに人口がいるから食糧不足になったんじゃなかろうか。


 他にも魚を食べる。

 いやまぁ、俺の世界でも、食べる地域は食べるけど、ヨーロッパだと忌避されてるってイメージだったんだけど。


 食べ物以外にも、時間を知らせる鐘。

 俺が頭突きしたのがその鐘らしい。

 で、この鐘を鳴らすタイミングを決めているのが、皇城地下にある『大時界』という魔道具らしい。

 1日を24分割し、そのうちの偶数の表記を知らせる魔道具のようだ。

 受信がいくつかと送信があるらしく、受信側はあの鐘のある建物にあるらしい。

 直線の棒の上を左から右に矢印が動き、偶数になったときに光る、右端まで動いたら左に戻る、というもののようだ。

 これが光る際に、受信側に伝達が行く。

 ただし、受信側には棒と矢印しかないらしく、それは偶数のころにしか動かない。

 聞いた感じでは、直線と円形の違いはあれど、まんま時計のようだ。

 ただし、受信側はいまだに作れたためしがないらしく、農村部では日時計がメインなようだ。


 時間の呼び方に関しても、違和感がある。

 まず、この世界で『1時間』というと体感での俺の『1時間』と大差ない。

 まぁ、これは『大時界』のおかげなのだろう。

 メモリ一つ分を1時間と定めたのだろう。

 なので1時間単位で他人に伝える場合は普通に『1時間』と翻訳される。

 街の壁に設置された魔法具の青と黒の砂時計が動き、1時間を知る形となっているようだ。


 さらに、暦。

 俺の翻訳では1ヶ月35日。

 1年はまだ勉強に出てないけど、俺の部屋の天井の壁画を見る限り、おそらく12ヶ月で1年、つまり420日で1年という暦のようだ。

 月による気候の変動、つまり季節もある。

 この世界が天動説か、地動説かはまだわからないけど、単純に俺の世界の常識から考えるなら、自転周期は24時間で公転周期が420日、自転軸は地球のように傾いており、公転は楕円を描いている、と考えていいのだろう。

 地動説ってコペルニクスだったか?ガリレオだっけ?

 まぁ、いずれにしてもルネサンスあたりや大航海時代あたりか?

 そのころに時計や今日使われているような暦があったかは知らんが。

 たしか、公転周期から惑星の質量を出す計算もあった気がするが、残念ながら俺はゴリゴリの理系ではなかったから、その辺適当に流してた気がする。

 こんなことならもっと勉強しておくんだったな。


 あと、微妙なところでは単位。

 この国では長さは『マーテラ』(このマーテラという言葉は文章を見た際の翻訳で出てくる。普通に会話を聞く分にはメートルと聞こえる)という単位が使われている。

 が、俺の翻訳では『メートル』と訳される。

 長さも、俺の体感ではメートルとほぼ違いがない。

 ちなみにこの『マーテラ』これも皇城地下にある魔道具が由来らしく、20本ほど現存しているらしい。

 その名もそのまま『マーテラ棒』。これには100等分されたメモリ、というか傷がついており、剣やレンガなどにはこのメモリが使用されているらしい。

 余談だが、この『マーテラ棒』実は皇城内にもいくつかある。

 話を聞いた後、見つけて、『鑑定の魔眼』で調べてみたのだが、どうやらオリハルコン製だった。

 見た時はまだ見ぬファンタジー素材にすごくテンションが上がったのだが、話を聞くと、曲がらず折れず、熱して加工しようとしてもビクともせず、多分、過去の王様も持て余したんだろうな。装飾の一部に使われていた。

 で、ふとオリハルコンと見た時に『聖剣ドラゴニック☆アスカロン』のことを思い出した。

 なので試しに『分析』で見てみるとどうもこのオリハルコンの棒は『聖剣ドラゴニック☆アスカロン』……面倒だな。『アスカロン』でいいだろ。アスカロンとちょうどオリハルコンの含有量が同じだとわかった。

 これ、もしかしてアスカロンの修理用の金属じゃなかろうか。

 多分、アスカロンに使われているオリハルコンと同じ量のオリハルコンを用意してストックしておいたんじゃないかな?

 推測だけど。



 まぁ、いずれの技術にしても、中世ヨーロッパというよりは近世ヨーロッパ以降というイメージが強いんだが。

 まぁ、ファンタジーだしな。

 しかし、それにしては畑などの作物に関しては、同じ作物をずっと同じ畑で作っていたり。なんというか、ちぐはぐなイメージがするな。

 歴史の授業では中世だとすでに三圃制とかあったように思うんだが。



 おっとそんなことより、今は目の前のこの植物の家だな。






「なぁ、ミリアさん。これちょっとでかすぎないだろうか?」

(……だそうだ。ミリア殿)

「そうですね。ちょっと野生種の物より大きいですが、問題ない範囲かと」

 いや、丸太が割れるほどの力で巻き付いてくる野菜なんてないだろ。

「残念だけど、これはすぐには使えないな。もうちょっと生育自体を押さえて実の方を変わらないくらいつけさせることは可能?」

(……だそうだ)

「うーん。わかりました。もうすこし、研究してみます」

 うん。お願いします。

 無理を言っているのはわかってるけど。がんばってほしい。


 ふと、横に目を向けると、そこにも畑があった。

 そこにあるのはキャベツとピーマンだ。

 ピーマンって食べるのだろうか。

 ざっくりと未熟な実を食べるのがピーマン、完熟した実を食べるのがカラーピーマンやパプリカだと思っていたが。

 で、これもでかい。

 キャベツは日本でいうところのスイカ大の大きさだ。

 ピーマンに至ってはもはや低木というレベルだ。そのくせ、実は俺の知るピーマンとさほど変わらない。

 ってまてよ?ピーマン。ピーマンか。

 たしか、トウガラシやしし唐もピーマンと同じ仲間だった気がする。

 一緒に植えると辛くなるんだっけか。

 そうだな。この開発もミリアさんにやってもらえば、味のレパートリーが増えるかもしれない。

 お願いすることにしておこう。



 ん?あのエフィーリアさんの畑の一角にある植物。なんだっけ。

 見たことあるな。

 一つは多分紫蘇だろうな。緑と赤があるから、多分青じそと赤しそなんだろう。


(ん?どうした?エフィーリアの薬草畑なんか見て)

 薬草扱いなのか。

「なぁ、バロン、あの青い葉っぱと赤い葉っぱって、食事に使ったりする?」

(いや?薬剤の材料にするくらいしか使い道はないな。あんなものそこまでうまいものでもないだろうし)

 そうなのか。まぁ、俺の居た世界と一緒とは思ってなかったけどな。

「ふーん。じゃぁ、あの蔓についてる実は?」

(あれも、辛いぞ。試しに焚いて食ったことがあったが、食たものではなかった。あれも葉と一緒に煮て薬の材料にするんだ)

「へぇ」

 試しに鑑定の魔眼を発動してみると、やはり俺の考えていたことは間違いではなかったようだ。

 少なくとも、これは役に立つものだな。


 鑑定の魔眼にはこう表示されていた。

『青紫蘇(ベンデン草)』『赤紫蘇(赤ベンデン草)』そして『赤胡椒』と。

1マーテラ=約1メートル

多夢和 (アレクシス) の思考では勝手に変換されるため、メートルとして出てくることが多いです。


3/15

バロン対ミリアはバロンが木札に文字を書くことで伝達しています。

バロンが喋っているように書いているのは木札を出すときにバロンが口にしていることです。

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