3-8_vsエルフの侍
じぃぃーーーーーーーーーーーーー。
エルフの侍少女は名乗ったかと思えば、要件も言わず、じっとこっちを見つめていた。
なんだ?とりあえず、訪ねてきた相手に要件を先に伝えるのは常識だと思うが、なんでこの娘はこっちを見続けているのだろうか?
と、いうより、このエルフも侍なんだな。
この世界のエルフは侍なのかな?
そういえば、過去に読んだ作品の中にもそんな設定があった気がする。
ドワーフだったり、エルフだったり、獣人だったり、竜の末裔だったり、種族はさまざまだが、たいていは辺境に住んでいたり、過去の転生者が侍文化を広めていたりってのがパターンな感じだったはずだ。
ということは、もしかしてこの世界にも昔転生した日本文化色の濃い人がいたのだろうか?
純ファンタジーだと和風国家があるパターンだが、この世界は和風国家がドリス皇国の同盟国として存在しているのは確認済みだから、こっちのパターンかな。
とすればあのエルフ、というかエルフの里は侍がスタンダードってことになるのか。
エルフといえば、俺の中では長い耳をもち、魔法や感覚に優れて、鉄製品は最低限、森と共に生き、森と共に死ぬ。食事は木の実や野菜が中心で、なんか尊大な木を守ってるとかそんなイメージ。
それが目の前のエルフは、白と赤を基調とした金属製の平安武士のような鎧に、長い刀……おそらく太刀と呼ばれるものだろう……を腰に提げている。
謁見するにもその恰好はないんじゃないかな。
あと、さっきから別の意味で存在感を放っている「ソレ」。
彼女の座るソファーの後ろにドンと置かれているでっかい袋。
ちらっと鑑定してみる。
アイテム名『大猪の革の袋』
それはいいから。
中身を見せてくれ。
……
[パーソナル]
名前『-』
種族『ライトニングディア』
種族ランク『C』『金級』『戦争級』など
冒険者ランク『-』
職業『-』
称号『-』
レベル『28』
好物『ゴムリア草』
[ステータス]
体力『D+』
潜在魔力『D』
筋力『D+』
防御『E』
敏捷『C+』
魔力『C』
知力『E』
器用『E』
対魔力『D』
統率『-』
運『-』
[状態]
『死亡』
[習得スキル]
『蹴撃』(レベル:D)
『突撃』(レベル:D)
『雷魔法』(レベル:C+)
『マーキング』(レベル:D)
種族名『ライトニングディア』
系統『鹿系魔物系統魔法特化』
ランク『Cランク』
種族スキル『蹴撃』『突撃』『雷魔法』
説明『鹿型の魔物。魔力で電気的な障壁を張り、外敵から身を守る。また、電気を通しにくいゴムリア草を見つけるために使用している。普段から電気を使用しているためか、肉は柔らかく、ビタミン・ミネラルが豊富。革は柔らかいが、電気刺激から身を守るために、雷魔法に抵抗力がある。角は単品では煎じて精力剤として使用されることが多い。複合することにより、薬効効果を高める作用がある』
どうやらCランクの魔物っぽい。
この娘一人で狩ってきたのか?だとすれば相当強いんじゃないのか?
確かCランクは銀級って書いてあった気がする。
複数パーティーで挑むレベルとか鑑定さんに書いてあった気がするから、やっぱりパーティーで狩ったのかな?
「それで、本日はどのような御用件で?」
「失礼しました。その前に、こちらは献上品となります。お納めください」
エルフの少女が袋を指して言うとすかさずじぃやさんが中身を確認した。だから、どこにいたんだよ。すげぇな忍者。
「これは……ライトニングディア?それも、一匹丸々?」
「え!?そんな高価なもの一体どこで……」
高価なのか。しかし、姫様よ。お客人の前だから余りはしたない反応はいかがなものかと思うぞ。
「それは、私が昨日狩ってきた物です。血抜きもしてありますので、新鮮なうちに食べられるのがよろしいかと」
しれっと言ってのけるエルフ。シャルロッテさんとじぃやさんは呆然としている。
「それで、このような高価なものを献上品としていただくからにはそれなりの要求があるのでしょう?一体なにをお望みなのですか?」
シャルロッテさんが落ち着きを取り戻し、エルフ……リヴィアーデに問いかける。
「……実は先日、神を名乗るものから啓示のようなものがありました」
「神?」
神?
思わずシャルロッテさんとハモってしまった。
神ってあれか?俺に指名とやらを押し付けてこっちにつれてきた女神。
どういうことだ?
この前交信したときはそんな話、無かったが?
「実は私には、兄がおりまして、先日連絡が途絶え、音信不通になっていたのです。しかし、先日神を名乗るものと兄から「こちらは元気にやっているので心配しないように」と連絡がありました。こまったことがあれば、皇家にお世話になっているものを頼るようにと」
「失礼ですが、お兄様とは一体どなたでしょう?」
「兄はアスティベーラと申します」
やっぱりか!!
あいつ、自分の妹をこっちに押し付けてきたのか!
「はて?トンと記憶にないお方なのですが……」
そりや、そうだろうよ!
あいつと交換で転移したことは俺しか知らないし、女神のことは俺含む転移者しか知らないはずだ。つーことはなにか、俺を頼ってきたのに、この娘は変な人扱いされなきゃいかんのか?
あー、こんなことならサボらずに人化して話しておくべきだったな。
「それで、皇家に世話になっているものの名前は?」
「名は申しておりませんでした。ただ、魔物であるとだけ」
「魔物……?」
シャルロッテさんとじぃやさんが目を合わせて、そのあとこちらをゆっくりと見てくる。
あー、これは覚悟して話さないといけないだろうな。
と、思ったそのとき、俺の体をシャルロッテさんが思いっきり引っ張って抱き締めてくる。
「すごいです!!アレクシスさん!!あなた!!ただの魔物じゃなくて、神獣だったのですね!!」
ちょ、苦しい……。
「まさか神獣とは……。いやはや、納得いたしました。神獣ならば、図鑑に登録されていないのも納得がいきますし、あれほど高い知能を有しているのも納得がいきます」
神獣?
いや、まあ、そんなことよりですね。
今、俺を抱えて、というか放り投げながら喜んでいるこのお姫様をどうにかしてくれませんかね。
「……あの」
シャルロッテさんにリヴィアーデが声をかけた。
「正直、その魔物が兄の言っていた方とはとても思えないのですが」
その言葉にシャルロッテさんがぐりんと顔だけをリヴィアーデに向け、
「……あなた、アレクシスさんの素晴らしさがわからないと?」
怖い!シャルロッテさんめっちゃ怖いよ!
「いえ、そういうわけでは……」
「よろしいでしょう!ではアレクシスさんの力を見せつけてあげるとしましょう!じぃや!」
「はっ!」
は?何をおっしゃり始めましたか。このお姫様は。
「勝負です!リヴィアーデさん!アレクシスさんと戦略ゲームをしていただきます!」
おいぃぃぃぃぃ!?
何を言っておりますか!?
「勝負はウォータクティクル!審判はじぃや!アレクシスさんの代打は私が勤めます!」
「え、あ、は、はい。はい?」
そういうと、じぃやさんがチェスのようなボードを俺達の間に持っていた。
あの……。俺、ルール知らないんだが。
机をはさんでエルフとシャルロッテさん、そしてシャルロッテさんの膝の上に俺がいる。
やばいルールがわからないまま勝負になってしまった。
このボードゲームはどんなものなんだろう。
アイテム名『ウォータクティクル』
レアリティ『☆』
効果『娯楽』
説明『西アレイシア地方で一般的に普及している娯楽遊びの一つ。西方地方で普及しているウォーゲームに独自ルールを追加した遊び。王、王妃、王子、姫、騎士、僧正、兵士、人民の駒を使用し、地形マスを使用する。始めにボードの中央部に仕切りを立て、地形マスと駒配置を行う。交互に駒を進め、王と王子が残っていれば勝利。戦略性が高く、貴族の間では特に人気が高い。平民にはルールを簡略化し、駒などを木製にした廉価版に当たる、「ワイド」という遊びが人気』
チェスか将棋みたいなもんか?
苦手分野なんだけどなぁ。
「さぁ!アレクシスさん!貴方の本気を見せてください!」
いや、先にルール教えてよ。シャルロッテさん。
シャルロッテさんが俺の指した駒を次々セッティングしていく。どうやらこのゲーム、駒は自分で配置していくようだ。よくわからないのでとりあえず、王と王子は後ろに下げておく。
ちなみに駒を指すときは手で触って置く先のマスを触って示している。
シャルロッテさんはウキウキしながら駒を並べてくれているが、テンプレとかわからないので、完全に適当なんだが。
「では、準備ができたようですのでお願い致します」
じぃやさんの掛け声で勝負が始まってしまった。
互いに5手程進んだ後に、ふと思って考えた。素人目に見ても、完全に敗北濃厚な勝負なのだが……。
なので、少しだけズルをさせてもらおうと思う。
スキル「分析」と「鑑定の魔眼」をフル活用させてもらう。
すると、目の前にいくつもの手順が思い浮かぶ。「鑑定の魔眼」で、さらに詳細が分かる。
こりゃひどい。完全に出来レースだ。
俺の感覚では麻雀ゲームで、サポートモードオンにしてCPU戦を戦っている感じ。
恐ろしいな。スキルEX。
………
……
「ま、参りました」
ひどい試合だった。
ほとんど完封勝ちだ。
盤面では相手の駒は残り王と王子、騎士のみ。
残りは蹂躙してしまった。
シャルロッテさんもじぃやさんもあまりの結果に唖然としていた。
「うぅ……まさか魔物にボードゲームで負けるなんて……」
……すまん。エルフ侍の妹よ。
多分、彼女の心が折れた瞬間である。
遅くなって申し訳ありません。
十二指腸潰瘍再発→花粉症というコンボを食らってしまい……
再びルート変更。またプロット書き直さなければ……
2/16
種族ランクに金級・戦争級追加