表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

38話 失ったもの





 「うぅいてぇ・・・俺は・・・また、死んだのか・・・?」


 俺が目を覚ますと、幸運というべきか生憎というべきか、頭上にはしっかりと天井があった。

 

 「はは・・・そうか、まだ先か」


 流石に死も覚悟した。

 しかしこうやって生き残ってしまうと、やはり生の喜びを実感するな。


 ますます死にたくなくなったよ。


 ――――それにしても、


 「ここは一体どこだ?」

 「ウィークス医院だ!よく生きてたグッサン!」

 「ぐへ」


 目を覚ました途端に飛び込んで来たその人物。

 見ると金髪の少女だ。ええとこの子は確か――――


 「――――エル。無事だったのか」

 「こっちのセリフだよバカ野郎!・・・まともに魔法使えねぇ癖に、無茶しやがって」

 「済まないな。心配ばかりかけて」

 「いや、今回の落ち度はこっちにある。本来シスターの護衛は私の任務だったのに、私は失敗してしまった・・・グッサンには感謝してもしきれん」

 「・・・」


 シスター・・・そうだ、シスター。


 その言葉を聞いた途端、先の出来事が走馬灯のように頭へと流れてきた。


 宴会の片付けの途中に凄まじい音が聞こえ、聖堂へと向かったこと。

 エルに指示され、シスターを連れて逃げようとしたものの・・・結局エルを助けに行ったこと。


 倒れるエル。そしてにやけ面の男。


 その男、ナインとの戦い――――


 「――――どうなった」

 「?」

 「あの後どうなったんだ?あれから何日たった?シスターは無事か?ナインとかいうのは――――」

 「落ち着けグッサン、私もさっき目を覚まして知ったところだ」

 「教えてくれ。一体あの後、何があったのか」

 「――――時間がないから手短に話す。よく聞けよ」


 そうやって話された内容に、俺はとても安堵などしていられなかった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ナインは姿を消した。


 エルは開口一番、そう告げる。


 「生きてるのか?・・・アレをまともに食らったのに」

 「私も驚いたよ」


 あの場にはナインのものと見られる大量の血痕が残されていた。

 しかし肝心の死体は見つからなかったのだという。


 「そしてシスターは――――無事だ」

 「よかったあぁぁぁ」

 「この医院の集中治療室で今も治療を受けている。意識はまだ戻っていないが・・・とにかく命は無事だ。お前のおかげだよ、グッサン・・・」

 「まぁ運が良かったな!エルもよく頑張った!」

 「・・・」


 ――――そしてもう一つ、重要な事実が一つ。


 「おや。目を覚まされましたかな、グッサン」

 「ウィークス二等軍医殿!ご苦労様です!」


 ふいに病室に現れた大男。

 その白髪交じりの巨漢に、エルはビシッと敬礼をキメる。


 こらこら、ここは病院なんだから大声出しちゃいけませんよ。


 「敬礼はやめたまえエルヴィ君。その呼び方もだ。我々はもう軍人同士ではないのだぞ?」

 「はっ!了解致しました、元二等軍医殿!」

 「やれやれ」


 だから大声出すなって言ってるだろ。

 全くこいつって奴は・・・


 「こらエル、ご迷惑だろ。やめなさい」

 「あ・・・申し訳ありません、ウィークス殿」

 「いえ、良いのです。元気がある点は非常によろしい!」


 そう言ってカッカと笑う彼はウィークス・ベアバルドという。

 今俺たちがいるウィークス医院の医院長先生にしてエルの元上官・・・王国軍の、である。


 これはマル秘情報なんだが、この二人。

 実は元王国軍兵士らしいのだ。


 「シスターには秘密だからな!知られたくないんだ」

 「はいはい、わかってるよ」


 エルはこの調子である。

 まぁ誰にでも知られたくない過去くらいあるわな。


 とにかくこの二人、兵士の頃から互いに知り合いだったようで、エルは今でもウィークスに会う度にこの敬礼を欠かさないのだという。


 全く律儀なんだか、ただ単純なのか・・・どっちもだな。


 「――――それはそうと、グッサン」

 「はい」


 ウィークスは改まって、ベッドの上の俺へと声をかける。


 「傷の方はどうです?まだ痛みますかな」

 「・・・普通、ですかね」

 「そうですか・・・」


 包帯に包まれたその傷を、俺は左手で優しくさすった。


 「・・・」


 右腕のある位置。いや、()()()位置というべきか。

 本来そこに()()()()()()の俺の右腕は――――失われていたのだった。


 「何と言いますか。残念でしたな・・・」

 「いえ。生きているだけありがたいことです」

 「力及ばず・・・申し訳ない」

 「とんでもありません!むしろ良く治療してくださって、ありがとうございます」


 俺の右腕は、シスターの祝福血で威力を上げた「七属性反発」の衝撃に耐えられず、木っ端みじんに爆散してしまっていた。

 修復は不可能。そう告げられた。


 「・・・」


 正直、右腕を失ったと知った時のショックは大きかった。

 しかし考えてみれば、右腕を身代わりにしたおかげで、俺はエルとシスターを失わずに済んだのだ。


 必要な犠牲だったのだと納得する。


 ――――そんなことよりも、だ。


 「――――ウィークスさん」

 「何でしょう」

 「どうか・・・どうかシスターを頼みます」

 「無論です。我々の総力を挙げて、回復に努めましょう」

 「ありがとうございます――――」


 シスターとエル――――この二人さえ無事なら。

 俺が何を失ったところで、構うものか。


 「いて・・・」


 再び傷を撫でる。

 失ったはずの右腕が、ひどく痛んでいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ