37話 決着
俺は地面を強く蹴り、革ジャン野郎・ナインとの距離を詰めようと走り出した。
耳元では風を切る音が聞こえる。
「こりゃすげえな」
体感で何となく分かるのだが、今なら人類最速どころか地上最速のチーターにだって追いつける気がする。シスターの“血の祝福”はやはり本物だ。
そりゃ悪用しようとする輩が出てくるはずだぜ。
たとえ、シスターを誘拐する――――その危険を冒してでも、手に入れたくなるよな。気持ちはわかる。
だがな・・・共感は出来ても、同情する気なんてさらさらないぜ。
覚悟しやがれ、ナイン!
「どうした!攻撃してこいよ!」
「祝福血を使いましたか・・・やはりすさまじいが、エルヴィの速さに比べれば大したことありませんね」
ナインは大きく振りかぶり、魔石を投擲する。
どうやら動体視力も底上げされているようで、その二つの魔石の色までもはっきりと視認することができた。
緑と赤、ということは・・・風と火!
「爆発でも起こす気か!俺は避けてなんてやらねえぞ!」
――――パチパチン。
「さて、どうなる」
俺はナインが指を鳴らすのとほぼ同時に、魔石をキャッチする。
腕を犠牲にしてガードするつもりだったのだが――――魔法は発動しなかった。
なんだ不発か?
「やはり――――まぐれではなかったか」
「はぁ?何だか分からんが・・・ほら、返してほしかったんだろ!やるよ!」
さっきの火属性魔石も合わせて、合計四つの魔石を投げ返す。
再び笑うナイン。
「ふっ。ありがとうございま――――」
次の瞬間――――灼熱がナインを襲った。
「ッ!?」
とっさに背後へと飛びのく。
しかし、ナインの位置の少し手前で発生したその爆炎は、想像以上の規模だった。直径五メートルはあろうかという炎が青年を容赦なく包む。
回避もむなしく、左足を焼かれるナイン。
「くッ!」
勢いそのままに、背後の花畑へと転がる。
(まさか最初に食らう攻撃が・・・自分の魔法になるとは・・・)
負傷した足は焼けただれ、ひどく痛んでいた。
痛みを押し殺して、何とか立ち上がる。
(やはりそうだ・・・奴の祝福は『一時的な魔法の無効化』――――だから私の魔石は、奴の手を離れた瞬間に反応したんだ)
ナインは瞬時に距離を詰めてくる山口に舌打ちを打ち、小さく悪態をついた。
「チッ・・・相性最悪じゃないですか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「原理は分からんが――――」
「・・・」
「――――あんたの魔法、俺にはどうやら通じないみたいだな。ナインさん」
「・・・そのようですね」
教会の周りに広がる、美しい花畑。咲く花は全て自生なのだと聞く。
そんな花畑の中で、俺とナインは仁王立ちで互いの顔を睨みつけていた。
地平線からゆっくりと昇り始めた朝日が聖堂のステンドグラスを照らす。その眩さに目を奪われる前に、この野郎をぶちのめしてやることにしよう。
「・・・どうぞ」
「は?」
「僕をぶん殴らなきゃ気が済まないんでしょう?どうぞ、殴ってください」
何を思ったか、自ら頬を差し出すナイン。
他に考えがあるのか、俺をハメるつもりなのか・・・しかし、そこは超単純な俺である。
「――――じゃあ遠慮なく」
深くは考えない。
ピッチングの要領で右手に思い切り力を溜め、ナインの頬を殴りつけた。
――――ゴン!
「うっ!ぐっ・・・」
のけぞるナイン。
俺は構わずもう一発、もう一発とパンチを食らわせていく。その度にナインのうめき声が響くが、エルとシスターのことを考えればこんな痛み、なんてことはないだろう。
第一、この程度では俺の気が済まない。
容赦なく殴り、殴り、殴る。
――――ガン!ゴン!ゴン!
そうしてそろそろ俺の手の方が悲鳴をあげ始めたところで、唐突にナインが口を開いた。
「そろそろお返しです――――」
「――――くッ!」
ふいに俺の視界が歪む。
ナインが殴り返してきたのだ。
――――ガッ!
腰が乗った一撃に思わず倒れこみそうになるが、何とか踏ん張る俺。
こいつまだこんなに体力が――――
「殴られるのも飽きました。おっしゃる通り魔法は使えませんが・・・」
「!?」
「魔法なんて使わなくても、あなたを殺すことくらいできます」
そう言って、袖からナイフを取り出すナイン。
その目は確実に俺を殺すという冷徹な決意に満ちている。
「畜生・・・」
・・・やはりやるしかない。
俺は覚悟を決めた。
「さようなら」
一直線に腹部へと迫るナイフを左腕で受け止める。
俺は空いた右手をすかさずナインの眼前にかざした。
「なに・・・!?」
「選択属性は――――全てだ!」
上腕を襲う鋭い痛みにも怯まず、俺は右腕へと魔力を集中させる。そして――――
「まさか貴様――――」
「道連れだ、クソ野郎!」
――――ドゴンッ!!!
見覚えのある閃光と共にやってきた衝撃が、二人の意識と体を粉々に吹き飛ばした。




