19話 一番の短所
俺はグリスのたわわを両目に焼き付けながら彼女に手を振り、ベロベロの酒飲み共を横目にそそくさとギルドを出る。
と、ギルドの入り口付近ではエルとシスターが立ち話していた。
エルはいいとして、どうしてシスターが?と疑問に思い聞いたところによると、元から二人はギルドで待ち合わせをしていたらしい。
理由は知らんが、今日はシスターの「定期巡回」とやらが早めに終わる予定だったようで、どうせ俺の魔力査定の方が長くかかるだろうからギルドで待ち合わせして一緒に帰りましょう、となったらしかった。
「グッサン完全適性者だったのか!?」
「グリスにそう言われたんだよ。やっぱ珍しいのかね」
という訳で今は教会への帰り道。
進むにつれて徐々に人気が無くなっていく道に、俺達三人の談笑が響いている。
「かなり珍しいですよ。私も今までたくさんの魔法使いに会ってきましたが、その中でも完全適性者といえば、数えるほどしかいません」
「私も三人位しか知らないな。グッサンで四人目だ」
・・・なんかエルやシスターに言質がとれたおかげで「完全適性者」という言葉が急に現実味を帯びてきたな。
若干の優越感を感じてしまっている自分がいる。
「————しかし肝心の魔力量が少なかった、ということですね?」
「ああ。グリスによると、少し複雑な魔法を一回使っただけでも失神しかねないみたいだ」
「少ないなんてもんじゃないぞ、それ」
エルが言うには、俺くらいの成人が単純な魔法を使うと考えると、一度に百から二百ほどの魔法を使える魔力が何の訓練無しでも身についているんだと。
俺の魔力量は超基礎の魔法でも四、五回使えれば御の字。
曰く生まれたての赤ちゃんレベル、とのことである。
おいおい、急に劣等感を感じてきたぞ・・・まぁ、自戒できるから構わないんだがな。
俺の短所はすぐ調子に乗るところなんだ。
戒めていかなければな・・・自分を・・・
すでに歩道は、三人が横一列になってやっと通れるほどに狭い。
両脇の風景も繁華街や住宅街から花畑や草原に変わり、人気は全く無くなった。
・・・ほんと、町から離れたところにあるよな。あの教会。
「————そろそろ教会だな・・・おいグッサン!」
「どうした、エル」
「帰りついたら、私が直々に魔法を教えてやる。遅かれ早かれ必要になる時が来るだろうしな」
「おぉ!助かるぜ!」
「まぁ超基礎の魔法だけだが・・・気絶しない程度には厳しく指導するからな。覚悟しとけよ!」
「ありがとうございます!エル教官!」
腕組みしてふんと鼻を鳴らすエルを見て、シスターが口元を隠した。
・・・いくら口元隠しても目が笑ってますよ。シスター。
「ふふっ・・・頑張ってくださいね。エル、グッサン」
「はいっ!ガンガン指導してやりますよ!」
エルが得意げにすると、シスターのニヤニヤ顔がさらにウザい表情になった。
全く、この人は・・・
と呆れながらも。
俺はこの二人にある感情を抱いていたのである。自分でもびっくりするぜ。
実は数日前から何となく感じてはいたものの、自分でも気づかないほどに特殊で、今まで感じたことのない気持ちだったんだ。
最初は本当に小さい感情だった。
でもこうやって何度も三人で談笑し、生活を共にする内にその気持ちはより強いものになっていった。自分の中で抑えきれないほどに、理性では隠せないほどにな。
————俺は、この二人が好きだ。
その雰囲気、人柄、性格、二人の何もかもが・・・好きだ。
その気持ちは、二人と離れたくない、この教会を去りたくないと俺に思わせるまでに、強くなっていたんだ。
————笑えるぜ。
たった何十日一緒にいただけでなに家族面してんだよって、そう思うだろ?
俺だってそう思う。
・・・だから俺は「すぐ調子に乗る」んだよな。
ホント、一番の短所だぜ。