16話 魔力査定②
「エルちゃんとお連れの方、お待たせしました~!」
さっき寄り道して買ったパンをエルと一緒にかじっていると、部屋の扉を開け受付嬢が入ってきた。
眼鏡をした短髪の姉ちゃんである————なんだこの人、めちゃくちゃデカいぞ!
あの社畜女神の比じゃないぜ。この大きさ・・・
「すいません、道具を探すのに手間取ってしまって」
「構わないさ————俺はヤマグチだ。グッサンと呼んでくれ」
「何カッコつけてんだよグッサン」
う、巨乳に目がくらんで思わず・・・
「気にするなグリス、こいつはただのおっさんだからさ」
「あれ、エルこのお姉さんとお知り合いなの?」
「まあ少しあってな————」
「初めまして、グッサン!おそらくエルちゃんがお世話になってます!」
「こら、余計なこと言うなよグリスぅ!」
彼女の名はグリス・エディ。
長いことギルドの受付嬢をやっているようで、エルやシスターとも仲がいいらしい。
「珍しいですね、エルちゃんがリリーさんと一緒にいないなんて」
「シスターは巡回中だ」
「あれ?でもこの前は巡回にも付いて行ってなかったですか?」
「自分が一人になることはないから大丈夫なんだと。全く平和ボケしてるよな」
「・・・まあリリーさんがそう言うなら、問題ないんでしょう」
俺を置いてきぼりにして話す二人。
「あのさ・・・気になったんだけど」
「なに?」
「ちょっとシスターに過保護すぎないか?なんでだ?」
町の様子を見るに、少なくともこの地域はだいぶ治安がいいはずだ。
女性が一人で歩いていることなんてザラだったし、そこまで過保護になる必要はないと思うんだが・・・
「なんでって、そりゃお前————」
「駄目ですよ?エルちゃん」
にっこりと笑った顔のグリスが告げる。
過去、ここまで恐怖を煽るような笑顔を見たことがあっただろうか————そう自分に問いかけてしまうほどに恐ろしい笑顔だ。素直に怖いです・・・
一瞬空気が凍りついた。
・・・やっべ、これ触れちゃいけない話題だったみたい。
「————まあそういう訳だ、頑張れよグッサン!」
そう言ってエルがそそくさと部屋を出ていく。
どういう訳だよ。
「すまん、変なこと聞いたな」
「いえいえ、大丈夫です。それじゃ始めましょうか」
部屋の中が再び和やかな雰囲気になる。
さっきのは一体何だったのだろうか・・・
二人だけになった部屋の中で俺は、この人だけは絶対に怒らせないでおこうと心に誓った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ええと、グッサンは記憶喪失とのことですが」
「まあな」
「魔法の知識についてはどれくらい覚えてます?」
「ああ、それなんだが」
俺は待ってましたと言わんばかりに本で得た知識を喋くった。
話し終わると、グリスはにっこり笑って
「それだけ知識があれば十分です」
と一言、持っていた鞄から道具を次々と出してテーブルの上に置いていった。
何かの粉末が入った瓶に、試験管のようなもの、それを立てておく為の木台、太めの紐、そして注射器・・・注射器!?
「あの・・・グリス?それって・・・」
「それ?この注射器の事ですか?」
やっぱり注射器じゃん!
この世界にもあったんだなぁ・・・ってそうじゃなくて!
まさか注射するの!?嫌だよ!?