11話 あの頃に戻りたい
部屋の掃き掃除が終わり、そろそろ床を拭いていこうかなーと思ったところで突然部屋の扉が開いた。
「おぉー、この部屋ってこんな風になってたんだ・・・」
と、部屋の中に入ってきたエルが呟く。
金髪を後ろに結んだポニーテールが、部屋をキョロキョロ見回すのに合わせて左右に揺れている。
これはしばらくこいつと一緒に生活してきた副産物だと思うのだが、最初は無表情だと思っていたエルの顔にも一応表情があって、ちゃんと喜怒哀楽を読み取れることが分かってきた。
この前シスターと話した時に「エルが何を考えてるのか分からなくて怖い」的なことを話題にしたら、
「心配しなくてもだんだん分かってきますよ、一緒に生活していれば。それにあの子、意外と単純なんです」
と微笑っていたので、一体どういうことかと思っていたが・・・
ついに俺も分かるようになってきたぜ、シスター!
ちなみに今日はどうなのかと言うと、こいつめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。
「なんだ、随分機嫌良さそうじゃないか。何かいいことでもあったのか?」
「お、それを聞いちゃうか」
「・・・なんかあったみたいだな」
「そうだ!何だと思う?」
そう言って得意げに腰に手をあてて仁王立ちするエル。
めんどくさい質問が来たな・・・と思いつつも少し考えてみると、すぐにピンときた。
「もしかして、そのワンピースか?」
今エルが着ているワンピースを指差すと、少女の口角がますます上がった。
やっぱりそうか。
当たったみたいだな。
「ああ!シスターが小さい頃の服を仕立て直して私にくれたんだ」
「綺麗なワンピースだな。よかったじゃん」
「どうだ?似合ってるか?」
その場でくるくる回り、俺に全身を見せてくるエル。
確かにシスターの言う通り。単純だな、こいつ。
お古を貰ったくらいでこんなに喜べるなんてさ・・・
「おう。よく似合ってるぞ」
でも。
やっぱり子供って、何と言うかその・・・キラキラしてるよな。
俺みたいな大人が忘れてしまった、輝き?みたいなものを持ってる気がする。
俺も一度でいいからあの頃に戻れたら・・・
あぁー・・・目の前の光景があまりにも眩しすぎて、涙が出そうだぜ・・・
「————そういえば、グッサンはそんな恰好で何してたんだ?」
「・・・ん?ああ、俺か?さっきまでこの部屋を掃除してた」
「そうか。ご苦労様だ」
「エルは何でここへ?」
「私はグッサンを呼びに来たんだ。昼ご飯ができたぞって知らせにな」
「なるほど」
「という訳で作業が一段落したらリビングに来てくれ。私はシスターを呼んでくる」
そう言ってエルが部屋を出ていく。
エルって本当に働き者だよなぁーと俺が一人感心していると、去り際にエルが声をかけてきた。
「後、ちゃんと着替えて来いよ!そんな恰好で食卓に上げられないからな」
「はいはい、わかったよ」
廊下を軽やかに駆けていくエル。少々スキップ気味にも見える。
本当に嬉しかったんだなぁ、ワンピース。
・・・まぁそれはそれとして。
今まで気にしていなかったが、俺の格好も相当お粗末に見えるみたいだな。
包帯も結構取れてきたとはいえまだまだミイラ男レベルだし、シスターが俺を診やすいようにとこれまでは下着と薄い布切れしか着せて貰えなかったしな・・・現に今も股の間がかなり涼しいことになっている。
確か俺の部屋のクローゼットの中に「歩けるようになったとき用」の服が入れてあったはずだ。
それに着替えるか。
そう思いたち、掃除用具をまとめてカビ臭い部屋を出ていく。
杖をつきながらゆっくりと自室に向かう俺の脇には、しっかりと『現代魔法解体』が抱えられていた。