12話 久しぶりの外出
部屋に戻りクローゼットを開けてみると、そこにはまるで新調したみたいに仕立てられた俺のスーツが一式、綺麗に掛けられていた。
「もうボロボロだったろうに、わざわざ直してくれたのか」
この服にあまりいい思い出は無いのだが、それでも前世で一番肌に触れていた服なだけに多少は愛着が湧いていたようで、少し嬉しくなった。
つまるところ、
「ここには男物の服がないから、とりあえずこれ直しとけばいいか」
ということになったんだろう。
それでも嬉しいぜ、ありがとよ、エル。
ベッドに腰かけてゆっくりスーツに着替えた後、リビングへ向かう俺。
少しずつだが杖の扱いにも慣れてきたようで、普通に歩くのと変わらない速さで歩けるようになってきたぞ。これならそろそろ外出できるかもな。
異世界へやって来て数週間とちょっと経ったが、ようやく外の世界を見れると思うとワクワクが止まらない。
早く外を見て回りたいぜ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リビングの扉を開けると、部屋の真ん中にドンと食卓が置かれている。
そのデカい食卓を挟んで正面に、エルがちょこんと座っていた。
「来たか。早く座れよ、お腹ペコペコなんだ」
妙にソワソワしていると思ったら、腹減ってるだけかよ。
「シスターは?」
「今はお祈りしてるぞ。そろそろ終わると思うんだが・・・」
「————お待たせしました。どうかしたんですか?」
噂をすればと言うヤツで、日課を終わらせたシスターが俺の背後からやって来た。
「いやぁ、エルが早くしろとうるさくてな」
「シスター、早く頂きましょう!」
「ふふっ・・・そんなに焦らなくても、食事は逃げたりしませんよ」
全員が席に着くと、エルとシスターが「いただきます」と言って食事を始める。
あ、こっちでもそう言うのね。
俺も軽くいただきますと言ってから、スプーンを動かす作業に移った。
うーん、この世界の人がいただきますって言うの、結構不思議な光景だな。
日本とは言葉だけじゃなく文化も違うだろうに・・・
もしかして、本当は違うこと言ってるけど日本語に訳すと「いただきます」になるのか?
俺が頭の中で自動翻訳してるからそう聞こえる、とか。
————くだらないな。やめるか。
「そういえば、そのワンピースはどうです?エル」
「ピッタリですよ!それに凄く動きやすいし、いい感じです。ありがとうございます、シスター!」
「それは良かった」
そう言って俺の方へ笑いかけるシスター。
「・・・ほんと、エルって単純だよな」
「私は素直なだけだ。単純とは違うぞ!」
「そうそう、エルは素直なんですよね・・・ふふ」
「シスターちょっとエルのこと馬鹿にしてません?」
「そんなーとんでもないですよー」
・・・さては楽しんでるな、この人。
シスターは修道服(みたいな服)を着ていたり日課でお祈りをしていたりと、最初はめちゃくちゃ清楚で信心深いイメージがあったのだが、ここ数日で実はかなりお茶目な人だということが発覚し一人驚いていたところだ。
ことあるごとにエルをいじっては、俺にそのことを話してくる。
エルのことを共有できる話し相手が出来たことによって、そのお茶目さがより強調されたのだろう。
意外だよな。こんな人が年下いじって大喜びしてるなんて。
日々の行動から見て取れるように、いい人なのは間違いないんだがな。
・・・エルのことを本当に愛している、というのも同じくだ。
説明されるまでもなく行動から理解できたぜ。
・・・いじり癖の方は知らん。
「・・・そうだ。エル、グッサン、少し買い物を頼まれてくれませんか?」
と、唐突に提案をするシスター。
おぉ!願ったり叶ったりじゃないか!
「え、またですか」
「はい。要り用になったので」
「私はいいんですが・・・」
「私のことを心配しているの、エル?」
「はい・・・」
「大丈夫ですよ。今日は定期巡回の日ですし、私が一人になることはありません」
「シスターがそうおっしゃるなら・・・でも、なんでこいつまでついてくるんです?」
そう言って俺を指差すエル。
こら、人を指差しちゃいけませんよ。
「ここ最近グッサンはずっと部屋の中だったでしょう?たまには外出しないと。体に悪いですよ」
「流石シスター!分かっていらっしゃる!」
「・・・わかりました。荷物持ちでもさせます」
「一応ケガ人なんだから、お手柔らかに頼むよ」
てなわけで、食事を終えた俺とエルは外出の支度をして、シスターのご命令により買い物へ出発したのだった。
エルとシスターの謎のやり取りが少し気になったものの、外出できることの嬉しさに目がくらんだ俺はそんなことお構いなしにウキウキで準備をしていた。
ついに外の世界とご対面だな。
楽しみだぜ!




