9. 言い訳なら聞かん!
隣街についたのは夕刻の閉門間際だった。
馬車の荷物を空間魔術でありったけつめこんで軽くすることで、ぎりぎり間に合ったようだった。
スヴェンにつれられて、彼の勤め先であるプラコッテ商会へと向かう。
大きさとしては小規模の商会らしいが、現会長が立ち上げた新しい商会だとか。
「会長、もどりました」
スヴェンが商会の建物に入り、声を上げるやドタドタと慌しい足音が奥から響いてくる。
赤いボールのようなものが見えた。磨き上げられた表面が、明りを反射して光沢を放っている。
なんだ、これは? とおもったらボールに2つ目がついていて、ギョロリとにらみつけてくる。
扁平な鼻、濃い口ひげ、眉間によったシワ、ようやく人間の頭だと理解した。
「スヴェン! もどったか。なんだ、手ぶらで帰ってきおって。品物が手に入るまで帰ってくるなといっただろう!」
「会長、それがですね……」
「いいわけなら聞かん! さっさといってこい!」
スヴェンが口をひらこうとするが、会長は口角からつばをとばしながら怒鳴りつける。
「プラコッテ会長よ、落ち着くのだ。頭たるものが部下の前で慌てていては統率がとれない」
会長の胴間声に、セレナの銀鈴のような涼やかな声がさしこまれると、場の空気が変わるのを感じた。
「なんだ、貴様らは?」
「冒険者の方々です。今回、この方たちのおかげでロックレプタイルの素材を入手することができました」
「なんだ! それをはやくいわんか!」
スヴェンは何かいいたげな顔をするが、すぐに諦めの色を浮かべる。
「倉庫にいれておけ! いいか、今度は盗まれるんじゃないぞ!」
それだけをいうと、会長はまたもドタドタと足音をたてながら奥へと引っ込んでいった。
「ははっ、すいません。会長はいつもあの調子でして」
疲れたように笑みをうかべるスヴェンの背中には哀愁がただよっていた。
彼に案内されて会館の裏手にあるという倉庫に向かったのだが、周囲に人気ない場所に建つ倉庫を見て着になったことがあった。
「なあ、ちょっといいか」
倉庫の鍵を開けようとするスヴェンの背中に話しかける。
「はあ、どうしましたか?」
「ここ、また盗みにはいられるぞ」
「そうだな、この立地条件は非常にまずい」
「ど、どうしてです!?」
セレナとオレの二人から盗難の警告をうけて、戸惑うスヴェン。
「詳しいことはいえないが、ここは盗みを働く側としてはかなり好都合な状況だ。このまま放置しておくと、おいしい稼ぎ場になるぞ」
警備の仕事を何度か経験したことがあったが、似たような条件で何度も空き巣に入られたという家があった。
そのときは、家主が決まった時間に外出するということがさらに拍車をかけていた。
「悪いことはいわん、警備の人間を雇え」
「しかし……」
オレたちからの警告で不安を感じたようだったが、それでもなおあの会長に逆らえないのだろう。
「納品は3日後だったな。ここまできたら乗りかかった船だ。納品日までオレが警護してやる。依頼料は、その間の宿泊費と食費でいい」
「ありがたい申し出ですが、もしも勝手に雇ったと会長が知った場合、すぐに契約は解除される恐れがあります」
「大丈夫だ。あの会長さんは倉庫の前で警備の人間がつったっているのが無駄だって言っているんだろ。それなら、なんとかしよう」
「倉庫の前にたたずに、倉庫の中身を警備、ですか?」
「空間魔術で収納しておけば、どこにいてもだいじょうぶだろう?」
まるでなぞなぞの問いかけのようなことを言われ首をひねるスヴェンに種あかしをすると、「なるほど」といいながらくつくつと笑っていた。