10. 同じ部屋に泊まるといっても寝るだけだしな
夕陽も没した後、スヴェンから紹介された宿へと向かう。
高級宿というわけではないが、内装もしっかりしていて掃除もいきとどいていた。なかなかいい宿だなと思いながら、店主に話しかける。
だが、帰ってきた答えは、空いている部屋は一つしかないということだった。
「まいったな、他に空いている場所さがすか」
「もう夜も遅い、他の宿も似たような状況だろう。むしろ、空いているだけよかったではないか。店主、一部屋頼む」
「お、おい、セレナ」
「なんだ? ほら、いくぞ」
鍵を受け取るとセレナはさっさといってしまい、慌てて後を追いかける。
「なかなかいい部屋だな。ベッドも綿がよくつまっている、これは寝心地がよさそうだ」
部屋に入ると、セレナはこちらなどお構いなしに、剣帯や腰のポーチをはずしていき、最後に皮鎧をはずしていく。
「どうした、お前も脱がないのか?」
ほどいたセレナの髪がサラリと肩口でゆれる。
クエスト中は動きやすいように髪を後ろでひとつにまとめ、勇壮な女戦士といった印象であった。しかし、今の彼女は簡素な布のチュニックとあいまって、すずやかな大人の女性といった雰囲気にドキリとさせられる。
「ほら、貸してみろ。そのタイプは留め金がはずしにくいからな」
セレナはオレの背中にまわり、鎧をとめるベルトをはずすのを手伝いはじめる。
いいのだろうか……。まあ、彼女も気にしていないようだし、こちらもそんな気はないのだが……。
同じ部屋に泊まるといっても帰って寝るだけなことだし。まあいいかと、腹ごなしに飯を食べに出かけた。
以前来たことがある店だったが、客の入りもいいようで酔客の陽気な声がそこかしこから聞こえる。
揚げ物がなかなかうまかったことを覚えていて、ひさしぶりに食べたが味に変わりはないようだった。ぱりっとよく揚がった衣に歯を通すと、香辛料で下味をつけられた肉のうまみが口の中に広がる。
セレナも満足してくれたようで、料理がどんどん減っていく。
「セレナはまだ腹に入りそうか?」
「もちろんだ」
「それなら、食わせたいものがある。ロックレプタイルのスープだ。北の方じゃ食べたことないだろ」
「ほう、あのトカゲを料理したものか。それは楽しみだ」
ロックレプタイル自体はその皮が素材として価値があるが、肉もまた食用として流通していた。
脂身が少なくジューシーな味が特徴で、この店で出すスープは、ほろほろになるまで肉を煮込み味をたっぷりしみこませた一品だった。
しかし、店員を呼び注文すると、品切れと告げられてしまった。
「ワイバーンの繁殖期のため、ロックレプタイルの肉が仕入れれらないものでして」
「そういえば、そうだったな。それじゃあ、代わりのを頼むよ」
この前、自分で狩りにいって襲われたばかりだというのに、手元にロックレプタイルがあるせいですっかり失念していた。
「残念だったな。どんな味か気になるし、帰ったらつくってみてもいいか? 肉はまだのこっているのだろう」
「セレナ、料理できるのか?」
「店のものには及ばないだろうが、近いものはできるだろう。味付けは、ライルに聞きながら作ればいいさ」
スヴェンに必要分を渡したが、余った分がまだ残してあった。
それならと、セレナに料理を頼もうとしたところで
「お、おまえら、ロックレプタイルをもっているって言っていたが本当か?」
唐突に話しに割って入ったのは、取り立てて特徴のない若い男だった。年のころは20代前半といった感じだが、こけた頬と無精ひげが目立ち、猫背がくたびれた印象を与える。
「なんだおまえは?」
「盗み聞きしていたの謝る。あんたら、見たところ冒険者だよな。だったら、これだけは聞いてほしい。プラコッテ商会にそのロックレプタイルは卸さないでくれ」
男の口からでたのは奇妙なお願いであった。




