11. オレ……仕事……したいです
唐突にあらわれた若い男は、さらにまくしたてるようにしゃべりだす。
「なんだったら、オレが買い取ってもいい」
男が提示する額は相場より高めのものだった。
それはひどく既視感があるものだった。
「もしかして、おたくはプラコッテ商会の従業員か?」
「え、ど、どうしてだ……」
「いや、なに。おたくのように焦ってロックレプタイルを手に入れようとしていた男がもう一人いたからな。スヴェンってやつなんだが、知ってるか?」
「スヴェンさんに会ったのか……」
「ああ、あいつにはもうロックレプタイルを渡した後だよ。商会の倉庫に入れるところまで、さっき手伝ってきたところだよ」
オレの言葉を聞くと、男はがっくりと肩を落として「そうか」と言うだけであった。
「……すまない、食事の邪魔をしてしまったな」
男は頭を下げると、ふらふらとした足取りで外へと出て行った。
「なんだったのだ? あいつは」
「さあな」
肩をすくめ残りの料理を平らげていく。
食事を終えると、セレナに用事があるといって先に宿に帰ってもらった。
「さてと……、仕事だ。はぁ、今晩は徹夜か」
人々が寝静まった頃、物陰に身を隠すように移動する人影があった。
そして、プラコッテ商会の裏手にある倉庫に向かうと、ポケットから取り出した鍵で倉庫の扉を開いた。
「……ない。なぜだ!? あいつはたしかに」
「こんなに暗くちゃ、目当てのものは見つからないだろう」
突如、魔力の明りが暗い倉庫内を照らした。
侵入者は突然の明るさに目をつぶり、そして、再び開けると、そこには腕を組みながら扉によりかかるライルの姿があった。
「おまえは、店にいた冒険者……」
「よっ、プラコッテ商会の従業員サリューシャさん。いや、いまは窃盗犯といったほうがいいのかな」
「こ、ここは商会の倉庫だぞ。オレはただ単に倉庫の整理にきただけだ」
「こんな夜更けにか? ずいぶんと仕事熱心だな」
鼻をならしながら笑うと、サリューシャは悔しげに奥歯をかみ締めていた。
「……オレを突き出すつもりか?」
「いや、それは雇い主に聞くよ」
「雇い主?」
サリューシャが怪訝な顔をすると、オレの背後でことのなりゆきを見守っていたスヴェンが姿を現した。
「……サリューシャ」
痛ましげな顔をするスヴェンをみたサリューシャは、後ずさろうとするが覚悟を決めたように一歩前にでた。
「オレはもううんざりなんです! 会長の言葉にふりまわされて走り回らされるのは! だから、この商会をつぶしてやろうって!」
サリューシャは血を吐くように内心を荒々しい口調とともにぶちまける。
そんな彼にゆっくりと近づくスヴェンの顔は穏やかで、まるで凪いだ海面のように静かであった。
「おまえも苦労してたんだな。いろいろあったよな、3日寝ずに仕上げた案件もあった。時には、素材の調達が間に合わず冒険者の真似事までしたことがあったなぁ」
「あのときは、魔物に追い回されて本気で死ぬかと思いました……」
「終わったあと、一緒にのんだ酒の味は格別だったな」
「はい……」
二人はしんみりとした口調で語り合う。そこには二人で共にした経験と思い出がつまっているのだろう。
「なあ、サリューシャ、もう一度ここからやり直そう。おまえならできるはずだ」
「スヴェンさん、オレ……仕事……したいです」
くずれおち膝をつくサリューシャの肩をスヴェンがポンとたたくと、サリューシャは漢泣きしながら立ち上がった。
白み始めた空から降り注ぐ光が、二人の男の背中を照らしていた。




