46. 冒険者ギルドは本日も営業中です
「それじゃ、いってくる」
「はい、お気をつけて～」
セレナさんと共にクエストに出かけたライルさんを見送りました。
オルニスさんがいなくなり、二人に戻ってしまったパーティーでしたが、現在、このギルド内で一番の稼ぎ頭です。
冒険者ギルドの受付担当として、ギルド員の活躍を見ると嬉しくなってきます。
ライルさんがパーティー募集の張り紙を出した日から、今のようになるだなんて誰が予想していたでしょうか。
ライルさんからパーティー募集のお願いを聞き、わたしからも他のギルド員の方にお知らせしました。
ですが、みんな渋い顔をして考えておくというだけです。
なにか訳があるのかと思うのですが、詳しいことは話してもらえません。
ライルさんは素行も良く、パーティーメンバーに迷惑をかけたというウワサを聞くこともなく、首をかしげるばかりでした。
そこで、ライルさんと交友歴の長いジョニーさんに聞いてみたところ
「それは、答えづらいだろうな。オレもあいつとは組みたくない」
「どうしてですか？」
「だってなぁ。あいつ、大体のことひとりでこなせる上に、他人の技術を見ただけでマネてみせて、自分なりにアレンジしてもっと上手く使いだすんだよ。あいつがいれば楽できるが、大体のやつは自分がいてもいなくても変わらない状況が嫌になるわけ」
ライルさんが受けるクエストは難易度の高いものばかりでしたが、いつも傷一つなく戻ってきていた。
そして、報酬を受け取る間、同行していたパーティーメンバーが釈然としてない顔をしていた理由を知ったのでした。
このままではパーティー募集に応募してくるひとが来ないと危機感がつのり、他のギルド支部にも知らせてみました。
もしかしたら、サウスハイムの街に移ってこようとしている冒険者の目に留まるかもという、気休め程度のつもりでした。
わたしの心配は杞憂となり、一人の冒険者がやってきました。名前はセレナ・バートランド。遠く北部の街ノースガンドから、騎竜便を使ってまでやってきた方です。
めでたく２人はパーティーとなったのですが、その後、北部の街のギルド支部から知らされた彼女の経歴を見て驚きました。
冒険者にしては珍しい女性だというのに、ノースガンドのギルド支部でもトップの働きをしている方だそうです。
そんな人がどうして、わざわざ南の街までと不思議でした。
二人は次々に高難易度のクエストを消化し、さらにオルニスさんも加わり、１００年以上なしえなかったダンジョンの異界化を解決するという偉業まで成し遂げました。
ここまでのものを見せ付けられると、運命が二人を引き合わせたなんていう夢見がちな少女のようなことを考えてしまいます。
完了済みのクエストの書類を整理しながら感慨にふけっていると、ギルド倉庫担当のガンツさんが足音高くやってきて頭をカッカさせているご様子。
「ライルのバカにいっとけ、おまえ少しは休めって！ このまえのチューブワームの解体がようやく終わったところに、こんどはタイラントグリフォンを持ってきやがった！」
あの巨大なワームの解体には、たしか他の職業ギルドからも解体職人の方に協力してもらったと聞いていました。
倉庫には、通常のグリフォンの倍以上はある巨体が横たわっています。
「……それは、その、無理かもしれないです」
「どうしてだ！？」
「さきほども、新しいクエストを受注して出発してしまいまして。討伐対象は、ランドトータスです」
「はあぁぁぁ！！ 小山ぐらいあるあんな魔物をそこの倉庫で出されたらパンクしちまうぞ！！」
ガンツさんの悲鳴にも似た叫び声が響きます。
倉庫に戻るガンツさんの背中におつかれさまですと合掌し、また受付カウンターのわたしの席へともどります。
「ねえ、ライルさんとセレナさんのことだけど」
受付前のお客様がはけたところで、隣に座る噂好きの先輩が話しかけてきました。
「あの二人なんか、最近みょお～に距離がちかいような気がしない」
「そうですか？」
「そうよっ！ 絶対あれはできてるわ！！！」
きゃーきゃーと一人でもりあがる先輩。
そういえば、この前ライルさんが受付にきたとき、こんなことを口にしていた。
『もう一人家族が増えるかもしれないから、もっと稼げるクエストを頼む』
倉庫担当のガンツさんが息をつく暇はなかなかきそうもありません。
どうやら、ライルさんは独身をつらぬけなかったようです。
あの夜、冗談交じりに交わした約束も無理そうですね。
「はぁ……」
他人に聞こえないようにこっそりとため息をつき、また業務に戻るのでした。
そこに若い男の方がいらっしゃいました。落ち着きなくキョロキョロと周囲に視線を迷わせ、服装をみるとどうやら冒険者の方のようです。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ」
「すいません、まだ冒険者を始めたばかりなもので、どこかのパーティーにいれてほしいのですが」
「かしこまりました。パーティーの募集ですね」
冒険者ギルドは本日も営業中です。
～おしまい～
