41. 手をつないでみないか
あれから、クエスト以外でもセレナに会うようにしていた。
誘うのはオレからだったり、セレナからだったりと時間が合えばその機会を増やした。
初めてこちらから誘ったとき、彼女の喜んだ顔はいまでも記憶に残っていた。
あるとき、隣を歩いているセレナがこちらをチラチラと見ながら手を握ったり開いたりしていた。
「どうしたんだ?」
「そのだな……手を……つないでみないか」
「お、おう、やってみるか」
若いやつらが手をつないで歩いているのを見たことがあるが、いざ自分がやってみるとわかったことがあった。
「……なんというか、歩きづらい」
「……そうだな。私もだ」
名残惜しげにセレナが手を離すが、思いついたことがあった。
以前、若いやつらが手をつないでいる姿を思い出し、そのときのつなぎ方を試しみることにした。
「セレナ、きっとつなぎ方が悪かったんだよ。ほら、こうやって指をからめてだな」
「う、うむ、こうか?」
手をつなぎ終えると向かい会った状態になり、それはちょうど、がっぷり四つになって力比べするような姿勢になっていた。
「……ちがったみたいだ」
「いや、これはこれで」
セレナがいたずらっぽい笑みをうかべると、体重をのせて両手で押してくる。
「お、おい」
「ライル、勝負だ」
ここで負けるのは悔しく、オレも足をふんばってみた。
しかし、相手は、魔物の攻撃を盾で受け止めるほどの足腰の強さを誇るセレナであり、押され始めていた。
魔術を発動させ、足元に踏ん張りやすいように段差を作り出し、なんとかもちこたえてみせる。
「いいぞー、がんばれ! 男の意地をみせてやれ!」
いつのまにかギャラリーが集まりっており、やいのやいのとはやしたててくる。
しまいにはどちらが勝つかでトトカルチョが始まりだした。
その中には冒険者仲間で見知った顔もあった。
「ライル! そのまま負けてくれ。セレナには貴重な銀貨1枚賭けてるんだからな!」
「ふざけんな! そこはオレが勝つほうに賭けとけよ」
さらには、街娘からも声援が飛んでくる。
「セレナさーん、がんばってくださーい」
孤立無援。だからこそ意地でも勝ちたくなってきた。
セレナもオレにおとらず負けず嫌いで、やる気十分なようだった。
押して引いて、フェイントを交えた駆け引きが繰り返される。しかし、敵もさることながら、その都度対応され攻守が逆転していく。
……負ける。その焦りにも似た感情がオレの頭を支配していく。そんな中、人間には手足のほかにもうひとつ、口がついていること思い出す。
「セレナ、気づいていないかもしれないが、お前には癖がある。攻撃にでようとするとき、左足をわずかに引くだろ」
「なに、本当か?」
かかった! セレナが思わず視線を左足に落としたところで、一気に攻勢をうつる。
全体重をかけて押し込み彼女が踏ん張ろうとしたところで、手を引っ張り逆方向へと力をかけた。
これには彼女もたまらずバランスを崩し、足が一歩前にでてしまった。
「勝者、ライル!」
トトカルチョの主催者の声が高らかにあがると、とたんに野次が飛んできた。
「このやろう、ちゃんと空気読んで負けろよ!」
「うるせえ! 賭け筋を読めなかったほうが悪いんだろうが」
ギャラリーたちの手から賭け札が空へと舞っていく中、セレナが少しだけ不満そうにしていた。
「ずるいぞ、ライル。あんな引っ掛けをしてくるなんて」
「悪いな。だけど、実際にセレナの癖はよく知ってるつもりだ。前衛として魔物を抑えてくれているから、セレナのことはよく見ていたよ」
オレの言葉を聞いたセレナは驚いたように目をしばたかせたあと、またも不満そうな顔をする。
「ライルはやっぱり……ずるい……。そんなことを言われたら、これ以上なにも言い返せないじゃないか」
そんなやりとりをしていると、いつのまにか視線が集まってきていた。
「ライル……おまえら、まさかもうデキてやがったのか」
「知らん、知らん、セレナ、行くぞ!」
興味津々な様子でこちらを見つめるギャラリーから逃げるべく、慌ててセレナの手を取ってこの場から走り去っていった。
どうやら、走る分には手をつないでいても問題ないようである。




