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23. 沼の掃除屋チューブワーム

 あれから、セレナと交代で睡眠をとり朝を迎えた。

 朝焼けのまぶしさに目を細めながら、今回の討伐対象が生息する湿地帯へとたどりついた。


 広大な湿地には白いもやが立ち上り、現実があやふやになる風景は幻想的とさえいえる。


「いいか、どこに底なし沼がひそんでいるかわからないから、必ずオレの後をついてこいよ」


「それはいいけど、ほんとに大丈夫なの?」

 

 オルニスの懐疑的なまなざしを背に、足元に魔術を発動させる。


「なるほど、凍らせて足場にするわけか」


「これなら確実だろ」


 オレたちが通った後には氷の道が出来上がっていく。

 

「なあ、ライル」

 

「どうした?」

 

 足元を凍らせるため前を向きながら返事をする。

 

「よくは知らないが、こういった場所を踏破する方法はこれが普通なのか?」


 本来ならこの湿地帯になれたものをつれてくるか、探索能力に秀でたものが安全な足場を探っていく。

 ベテランをつれていったとしても、安全を確認しながらのためなかなか前へと進めない。


「いやいやいや、おかしいでしょ! そんなことしてたら、普通魔力が切れるわよ!」

 

「いいんじゃないか。こっちの方が楽だし」

 

 以前、探索役として一緒にきていたジョニーが難儀していたのを見て、思いついた方法だった。

 オルニスはというと、なぜだか口をへの字にまげて納得できないといった表情でついてくる。


「で、チューブワームだっけ? 今回の討伐対象は」


「ああ、そうだ。このクエストなんだがな、以前失敗したことがあってな」


「はぁ、やれやれだわ。南の街の冒険者なんて、やっぱり大したことないわね」


 オルニスはバカにしきった仕草で首を振っている。


 と、そこに魔物の気配を感じた。


 蛇のように長大な体躯をうねらせる姿が水面から陰として見えている。その威圧感はワイバーンすらも軽く超えていた。


「でかいわね……」

 

「あれが、チューブワームだ。気をつけろよ、人間なんてひとのみだからな」

 

 チューブワーム。蛇のように見えるが実際は巨大なワームだ。湿地帯に足をとられ沈んだ憐れな犠牲者を捕食する。別名、沼の掃除屋。あれに食われると骨も残らないとか。

 その体表の皮は柔軟で撥水性に富み、テントや馬車の幌など様々な用途に使われる。しかし、湿地帯に潜み泥や水中を移動し容易には捕獲できないため、その素材は高値で取引されている。

 以前挑んだときは、結局逃げ回られるだけで取り逃がしてしまった。


「ふん、水中にいる敵なんて雷撃魔術の格好のエサじゃないの」


 オルニスが不敵な笑みを浮かべながら、杖を掲げる。そして、その先端の紅玉から魔法陣が展開する。


「練成! 雷の槍(トライデント)!」


「おい、まて! オルニス!」


「一撃でしとめてみせる! 見ててね、セレナ!」


 オルニスの手の平で雷光が束ねられ、光輝く一本の槍となった。おおきく振りかぶって投げると、その三叉に別れた先端が水中をかき分けていく。

 途端にバチバチと雷が乱舞し、余波をうけた水中の魚たちが腹を上にむけてぷかりと水面に浮かぶ。


 そして、雷の槍本体が水中でうねるチューブワームの鱗のないぬめる体表に突き刺さった。


「は? なんでよ!!」


 しかし、紫電をともなう光は黒い体表ではじかれ霧散していった。


 水中で巨大な体がうねり、次の瞬間、急激にこちらに近づいてくる。


「あいつには雷撃魔術はきかないんだよ。くるぞ!」


 以前のオレも、雷撃魔術ならば水をとおしてダメージを与えられると考えていた。

 しかし、やつの体表は雷を通さない性質なのか、ピンピンして、ただ怒りを買うだけの結果になってしまったのだった。

 さらには、水中にいるため風や炎といった魔術も大した効果がなかった。


 じゃあ、水中から出た瞬間を狙えばいいかって?


「これならどうよ!」


 オルニスが再びあのゴーレムを生成し、水中から飛び出してきたチューブワームに組み付かせる。

 そこへ、ゴーレムもろとも巻き込むように、魔術による火炎弾を打ち込んだ。


「なんで炎まできかないのよぉ!?」


 が、しかし……、体に纏った泥によって、打ち込んだ炎にも耐え切ってみせていた。


 そして、チューブワームに巻きつかれたゴーレムは万力でつぶされたように粉々に砕け散った。


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