20. セレナ、そのクエストで勝負よ!
結局オルニスはこのサウスハイムの街に居ついた。
本人は、あくまでもオレへの監視のためだからといっているが、いつ帰るのかはわからない。
この日は、次に受けるクエストのためにセレナとギルド会館にて会う予定だった。
「なんだ、ライルか……。セレナはまだなの?」
ロビー中央にたつオルニスは、オレを見るなり落胆も露わにしてため息をこぼす。
「おまえもヒマなやつだな。もしかして、毎日ここで待ってるわけか?」
「そんなわけないでしょ! 今日はたまたよ、たまたま!」
偶然を強調するが、ここ数日、ギルドにくれば必ず顔を合わせている。
「おはよう、ライル。それにオルニスも」
そこにセレナが姿を現し、とたんにオルニスは表情を明るくさせる。
オレが声をかけるよりも先にオルニスがセレナの前に仁王立ちする。
「待ってたわよ、セレナ! 今日こそ勝負よ。さあクエストを選びましょう!」
「待て待て待て。まずはギルド内であまり騒ぐな、迷惑になるだろう」
「うっ……」
オルニスは周囲から視線が集まっていることに気づき、言葉をつまらせる。
「よし、それじゃあ、どれにするか選ぼうか。ライル、何かよさそうなものはあるだろうか?」
オルニスとセレナ、クエストの掲示板前に並ぶ二人の姿は年の離れた姉妹といった感じである。
なんとなくオルニスの扱い方がわかったところで、クエストの一つに目がいった。
『チューブワームの素材。傷が少ないほど高く買い取ります』
それは、以前、挑戦したが失敗したクエストだった。
そのときは自分の力不足によって魔物を倒しきることができなかったが、いまならセレナがいる。
「どうした? なにか気になるものがあったのか」
「ああ、これなんだが……」
「なによこれ? チューブワーム? 聞いたことのない魔物ね。このへんにいるの?」
オルニスがオレとセレナとの間に、体をねじこみ依頼用紙を覗き込む。
パーマのかかった巻き毛が鼻先をかすめくすぐっったく、小さい頭を手でわきにどける。
「ちょっと、なにするのよ。みせなさいよ!」
「このクエストやってみないか? セレナがいればなんとかできそうな魔物なんだ」
つかみかかろうとするオルニスの小柄な体躯を片手で押さえつけながら、依頼用紙を確保しておいた。
下からは抗議の声が聞こえるが、無視しておこう。
「私の力が役立てるというのなら、ライルの期待に応えれらるよう全力をつくそう」
「はいはい、わたしも、わたしもいく! セレナ、そのクエストで勝負よ!」
オレの手から抜け出したオルニスは乱れた髪がぴんぴんとはねたままの姿で、びしりと指先をセレナにつきつける。
「ライル、すまないが同行させてやってくれないか?」
「ああ、かまわんが、大丈夫なのか」
「オルニスの魔術師としての腕は一級品だよ」
「そのとおり! もっとほめてもいいのよ」
鼻を高くしながら、うすい胸を張る少女の姿にどうにも不安がぬぐえないのであった。




