大惨事は惨事じゃない!羞恥だっ!!
キスされなかった事にイリアは心底安堵する。
南の次男坊は顎から離した手でイリアの細い手首を掴んだ。
冷たく震える女の指に男の剣ダコの出来た硬い指が絡み、そのまま男のジャケットのポケットに滑り込んだ。
「行くぞ」
「ちょちょちょっとお待ちになっ――」
「行くんだろ?王都に」
「行く、行きますけどっ、手っ!手を離してくださらない!?」
南の次男坊はイリアの倍のコンパスで歩き出す。手が繋がれているからイリアは小走りでついて行く他ない。
「駄目だ。こんなに冷たいんだから暖めさせろ」
「手袋ならちゃんと持ってますわ!だから――」
「駄目だ」
駄目だ駄目だ五月蝿い!!
あんたはわたくしの一体何だっ!!
お兄さまかっ!
うっ。
お兄さまを思い出してしまった。
お兄さまはもうシスコンじゃ無いのに、比べるなんて。
うう。
これもそれも、みんな南の、のせいじゃないかぁ!!
何で、命令されなくちゃいけないのよぉっ!
ただの求婚者の癖にっ!!
「俺が暖めたいんだから、黙って繋がれてろ」
前を行く南の次男坊はその一瞬だけ振り返って、赤い瞳を真っ直ぐに投げ掛けた。
また命令されたが、あまりの俺様発言に文句も消えてしまった。
代わりに沸き上がったのは羞恥であった。
顔は既に真っ赤で体温もぐんぐん上がっていく様に感じた。
寒い筈なのに、暑くて汗をかき始めている。
ポケットの中で繋がれた手もきっと熱くなっている。
南の次男坊が前を向いているから、イリアの様子はばれていないが、それも時間の問題だ。汗ばんできた手からばれる。
あの手を取り戻したいが難しい。
固く握られていてイリアの力では解くことも出来ない。
再び、離してと声を掛けるのも躊躇われる。
振り向かれたら真っ赤に染まった顔からばれてしまうだろう。
だからといって、このまま手を繋いだままというのも困る。
(あああぁぁ。落ち着け落ち着け)とイリアは深呼吸を繰り返した。
冷静になれば体温も下がるし汗も引く筈と深呼吸を繰り返す。
尤も、小走りを強いられているせいで汗が引く筈も無いのだが。
因みに。
南の次男坊には既にばれている。
獣道の前方に向き直る目の端に羞恥に染まるイリアの赤い顔が見えたし、繋いだ手は熱く緊張の為 か固くなっていた。おまけにひっきりなしに深呼吸音が聞こえ、イリアが動揺しているのが分かった。
南の次男坊はキスを拒まれた溜飲を下げ、口許を綻ばせた。




