大惨事は南の次男坊が……起こす
イリアと南の次男坊は森の中へ少し入った所で、太い幹の影に身を隠す。
兄のイリアを呼ぶ声が一際大きくなり、ちらりと顔を出すと兄の姿も見えた。イリアは慌てて隠れた。心臓が大きく響いて痛い。兄はコートを羽織っていたがズボンは寝間着だった。その上にブーツで何とも不恰好だったが、イリアが玄関から逃げ出して直ぐに追い掛けて来たのだと分かった。
兄はそのまま山道を王都の方へと消えて行った。
ふぅと息を吐いて、イリアが木の幹に背中を預けるよう振り向くと、真後ろに南の次男坊が立っていた。喫驚して叫びそうになるのを彼の大きな手が塞いで抑えさせた。
そのまま壁ドンならぬ、幹ドンされる。
「アホ、くそ兄貴に気付かれるぞ」
耳元で低い声が這う。
イリアは(じゃあ、顔がぶつかりそうな程後ろに居ないでよ)と涙目でつっこむ。
ビックリし過ぎて心臓がバクバク言っている。塞ぐ手が強くて少し痛い。
顔の半分を覆われているから、赤くなってしまったのは気付かれていない筈だ。
「放して」
大きな手の下で口を動かす。モゴモゴとなってはいるが通じている筈だ。
「あ?何だって」
意地悪そうに笑いながら南の次男坊は聞き返す。絶対、分かっている。
「はーなーしーてっ」
ほんの少しだけ声を大きくして、同じ台詞を口にする。
とぼけた様に「ああ……分かった」と言ったので、イリアはほっと安堵して一瞬だけ目を伏せた。
「キスして、だな?」
「んなっ!?」
――そんな事言ってない!!あんたの耳どうなってんのっ!?
勿論、抗議の声は手に覆われて表に出ない。
イリアは慌てて目を開ける。大きな手が顎へとずれて上に向けさせる。
南の次男坊の顔は目と鼻の先である。
赤く燃える瞳が真っ直ぐにイリアを覗き込んで、金縛りの様に体が動かない。
ヤバイヤバイヤバイ!
こんなに近いのこれで二回目!?
新年の宴の時に、もうこいつには近寄らないって決めたのにっ!!
何の反省にもなってないっ!!!
わーわーわーっっ!!
ファーストキスは好きな人とっ!
だぁっっ!わたくしの腕よ!動けっ!!
イリアの腕は少し動いて南の次男坊の胸を押すが、やはりびくともしない。
イリアは目をぎゅっと瞑っていて、その濃い紫の瞳には何も映さない。
南の次男坊の困った様な哀しい様な表情も。
南の次男坊の 息が唇にかかったので、イリアはその唇もぎゅうぅっと結んだ。
どれぐらい、そうしていたか……覚悟していた口付けは降って来なかった。
恐る恐る片目を開けると、南の次男坊の顔はやや離れていて、イリアと目が合うとばつが悪そうに目を逸らした。
同じ世界、同じ時代、隣の海の国を舞台とした短編とその補足のような続編も投稿しています!
併せてよろしくお願いいたします!!




