16歳は恋愛守備範囲ではないけれど……と、宰相子息2
悪友と別れて、けれどもそのまま広間で女性達と戯れる気にもなれず、宰相子息は中庭へ向かった。
夜空はよく晴れていて月が煌々と輝いていた。冬に咲く白や淡紅色の一重咲きの花が夜明けを待って眠っている。風は無いが空気は刺すように冷たい。微かに流れてくる音楽が背景へと化して耳に心地好い。
暫く何も考えず歩いた。ふと声のした方を見るとバルコニーで男女が抱き合っていた。
男と目が合い何故か睨まれた。
宰相子息はそれには取り合わず再び歩き出した。
先程と自分は何も変わらない筈なのに、何やら心の底からもやもやとどす黒いモノが這い出てくるような気がした。理由は分からない。あの男女を見てからだ。
それから、男の赤い瞳。
男が誰かは知っている。南の侯爵家の次男で近衛隊に所属する、王子の護衛だ。
その赤く鋭い瞳で何故睨まれなければならないのか。
ろくに話した事も無いのだから睨まれる理由は無いはずだ。偶々見てしまった事が不味かったのだろうか。見たくて見た訳ではないのだが……。
歩いても歩いても気は晴れず、見かけたベンチに腰掛けた。
見上げた月輪は冴え冴えとして眩かった。
目を閉じると自然と呼吸が深くなる。微かな花の香りが鼻腔を擽る。
パキッと枝を踏む音と舌打ちが聞こえて宰相子息は目を開けた。
「……妹ちゃん」
「……おめでとうございます」
イリアが会釈をして銀の髪が揺れた。
「ああ……おめでとう、妹ちゃん」
月の光に照らされて瞬く銀の髪は、何処かで見た事がある気がした。
「今……舌打ちしましたねぇ?」
今夜は軽口もあまり乗らない。
イリアは顔を背けて、今度は明らさまに舌打ちをした。
「相変わらず失礼な……子、で、す、ねえええ?」
マント?
それも……近衛隊の、白い、マント……?
マント……マント……揺れる銀の髪……抱き合ってた近衛隊の男と。
何処かで見た記憶の……銀の、か……み。
まさか。
妹ちゃんが抱き合っていた女性か!?
隠れて付き合っているにだろうか。
悪友からそんな話は聞いた事が無いが。
悪友にバレたら怖い事になりそうではあるから、隠す必要性は分かるが。
また自分自身、 驚愕でもあり衝撃でもある。
少し妹のように思っていたから、もう恋愛をするような年になったのか、と。
だから。
先程から感じるこのほの暗い感情は、寂しさなのだろうか。
「妹ちゃんも……大人になったんですねぇ」
言葉に詰まった後にしみじみと呟く宰相子息にイリアに訝し気な視線を向けられた。




