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兄と妹と招かれざる客7

応接間の隣の部屋。

大きなテーブルの上には家人に用意させた、北の帝国から仕入れた食品やら雑貨やらが並べられている。

兄と妹、二人の母たる北の侯爵夫人は宰相子息に持たせるお土産を選んでいる。

その横で兄は心底嫌々という顔で、母の「どれが良いかしら?これはどう?」という言葉に相槌を打つ。


「本当に、あれに土産なんて……」

「あら~。貴方が連れて来てくれた初めてのお友だちじゃない!」



いや、友達じゃない。

あれが勝手に来ただけだ。

それも、俺が居ない時を狙って!


「まあ、お友だちよりもお嫁さんを連れて来て欲しいんてすけどね」


ぐっ!

母親のなんて無い、けれども確実に心臓を抉ってくる言葉に息が詰まる。


「そ、それは」

「……まあ、分かっていますから。もう何も言いませんわ」


「……すみません」








イリア は溜め息を吐いた。

宰相子息に土産を選ぶっと言って出て行った母と兄は、まだ来ない。

既に十分、いや十五分は経っているか?

もう帰るという客(招かれざる客ではあるが)を待たせて、少し失礼ではないだろうか。

だから、失礼の無いよう、イリアが相手をしなければならないのだが……。


会話会話会話……あ。


「……ちょっと、聞きたい事があるんですけど」


「?」と、宰相子息が顔だけをイリアに向ける。

イリアも宰相子息も窓に背を向けていて同じ方向を見ていた。


「お兄さまは……やっぱり、モテないんですの?」

「やっぱり?……モテない?」


「ああ、モテないというのは、つまり沢山の女性に好かれていないのか?という事ですわ」

「お兄さまは非マ……筋肉質ではないので、女性に人気がないのかな?と、思いまして」


はあ、と溜め息が出る。

イリアの好みのせいとはいえ、兄には酷い事をしてしまったと思う。

無論、後悔はしていないのだけれど。


「確かにあいつは肉が足らないが・・・。人気・・・がないことは、無い、かと・・・」

「ええっ!?」


宰相子息の歯切れの悪い言葉にイリアは思わず、姿勢を直す。


「筋肉質じゃなくてもモテてるんですのっ!?」


イリアは仰天した。仰天し過ぎて、()けるどころか背筋がピンっと伸びてしまった。

まさか、この筋肉(マッチョ)の国で。

非マッチョの兄がモテるなんて!


「モテる?かどうかはよく分からないけれど・・・紹介して欲しいと言われたことは何度か、ねぇ」

「……へぇ」


イリアは急に心臓が重くなったように感じられて、同時に声音も低くなる。

宰相子息はイリアの旋毛を見下ろしているのだか、そんな視線にも気付かない。


「まあ、私には負けるけど、彼も美しい容貌をしていますからねぇ」


宰相子息の言葉にイリアは顔を上げ、口角を上げて見下ろす彼と目が合う。

兄を貶されて(美しいとは言われたが宰相子息に負けている、とは頂けない)ムカッとしたが、直ぐに揶揄(からか)われていることに気付く。


「お兄さまに勝る美形はおりませんわ!」


「クスクス……君はぶれないねぇ」

「お褒めに預かり」


褒められていないのは分かっているが、褒められていることにしよう。

兄が美しいのは間違いようのない事実なのだから。


しかし、それにしても、とイリアは考え込む。

非マッチョの兄でもそこそこモテるというのならば、一体何が問題なのだろうか。


「……じゃあ、お兄さまの一体何がダメなんですの?」


宰相子息に答えを求めた訳ではなかった。

 不意に口から漏れてしまった小さな呟きを、彼は拾った。


「それは……」


と答えたきり何も言わない宰相子息を、イリアは訝しく思い見上げた。

宰相子息はイリアを凝視していた。

その瞳は可哀想そうな物でも見るかのようで、イリアの心をどぎまぎさせた。


「……妹狂い(シスコン)だから?」





イリアは崩れ落ちた。




あぁ!

お兄さまごめんなさい!!

世の中の女性の皆さん、ごめんなさい!!

お兄さまが結婚出来ないのは、わたくしのせいなようですっ!!!


がっくし……。




 

これにて、招かれざる客は終わります。

イリアは16歳になります!!



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