|南の次男坊《正騎士》とイリア3
「イリア。」
「!?兄様っ!!」
北の令嬢は声のする方へ振り向いて、恐らく天使のような微笑みで兄を迎えたのだろう。彼女の顔は兄の胸に抱き留められて、南の次男坊には伺い知ることが出来なかった。鬼教官は笑みを絶やさず、けれども冷めた瞳で南の次男坊をちらりと一瞥した。
「彼とは何を?」
妹に向ける笑顔は本当に優しい。訓練中、騎士に向けるそれは殺気を含んでいる。
「別に特に何も。ただ、お兄様の姿が見えなかったからどうしたのかなっと思って・・・立って居たら、彼らが。ええと、何かありましたの?」
北の令嬢の声は少し低くなった。王城に呼ばれた事が心配になったようだ。
「心配するような事は何もないよ。何か、があったというのなら、あったのだけれども――」
言って、兄は妹の髪を優しく撫でる。イタズラを見つけた子供のように、ふふ、と目を細める。
「それは家に帰ってからのお楽しみだ」
「まぁ、お兄様ったら!」
何か、とは喜ばしい事なのだろう。北の令嬢の声が華やいで弾んでいる。
何だこれ。
何だこれ。
俺が居るのに二人の世界に入りやがって。
これだから、この兄妹はセットで一緒に居たくねぇんだよ。
・・・えーと、何て言うんだったか?こういうの。
このっブラコン!!シスコンがぁっ!!!
心の中で精一杯の悪態をつく。
『ブラコン』『シスコン』の意味は知らないが、南の次男坊は、からかいの言葉だと思っている。昔、子供の頃に「このくそ兄妹はっ!」とからかったら、「あら!わたくしはブラコンでお兄様はシスコンだから、良いのですわよっ!!」とイリアは怒りながら返してきたから間違いないと思う。
「何が良いんだ?」と訊ねたら真っ赤になって口をあわあわさせたので、かなりイラッとした。
と、ここで。
二人の世界と南の次男坊の世界が重なった。
鬼教官が背筋が凍る程の低く重い冷たい声で、二つの世界を繋げたのだ。
「何故上衣を着ていない?婦女子の前で礼儀がなっていないのではないか」
南の次男坊は慌てて、水に濡れていたが既に乾いたシャツを首にかけ腕を通す。
妹は兄の声音が変わったことに気付かないのか、内容にだけ着目する。
「そうですわよ!みっともないですわよっ!!」
兄の腕の中から少しだけ顔を出し、キャンキャン吠えるその顔は真っ赤だ。
あれ?
何だこいつ。
照れてる?
さっきから目をなかなか合わさないのはこれが原因か。
そう・・・思ったら鬼教官が来てイライラした心も少し軽くなって、口が滑った。まだ留めていない前を肌蹴させた。
「何故?目の保養になんだろ。」
沈黙。
の、のち。
「はあぁぁぁぁぁ?!冗談じゃありませんわっ!貴方の身体なんて!!これっぽっちも興味ありませんわっ!!!」
虫でも見るような眼差しと共に今日一番の雷をくらってしまったが、それさえも照れ隠しの裏返しのように感じられ、思わず口角が緩む。
――っと、やべぇ。
くそ兄貴がいるんだ!
ヤバイ。半端ない目で睨まれてる・・・。
死ぬかも。
軽口を叩くのを止めて今度こそちゃんシャツを着れば、今殺されるのは避けられたようだ。
鬼教官は妹へ天使の微笑みを向け、彼女の顔をを自分へと向き直させた。
「それで、イリア。私はまた王城に戻らなくてはいけないんだ」
俺が「よしっ!」と小さくガッツ ポーズしたのを奴に知られてはいけない。
読んでくださってありがとうございます!!
書き足しましたが内容は変わりません。2016.2.22




