|南の次男坊《正騎士》とイリア2
正騎士15歳。イリア12歳。兄23歳。王子17歳です。
南の次男坊は自分のことを恐れず、真っ直ぐに睨み付けてくるイリアのその濃い紫の瞳が好きだった。――のだが。
何故か今日は録に目を合わせて来ない。
睨まれるのも一瞬で直ぐ目を反らす。
もの足らない。
口調はいつもよりきついのに、何故その瞳を俺に向けて来ない?
「具合か悪そうだから様子を見てるだけだ。熱っぽいしいつもより攻撃的だ。やっぱり調子が悪いんだろ。――送る」
何故見てくるのか、という問いに答え南の次男坊は北の令嬢を立たすべく、手を差し出す。その手を取らることはなく、それどころか肩を退かれた。
北の令嬢が手を取らないことなど百も承知だったが、後ろに下がられたのには頭に来た。
暑かったせいかも知れないし。
虫がやけに五月蝿かったせいかも知れない。
普段なら絶対そんなことはしない。
風に吹かれて舞い揺れた、その銀の髪を一房掬った。
北の令嬢が骨ぼったい男の手を凝視する。
男の鋭く赤い瞳がその視線を受け止め。
一瞬触れるだけの口付けを落とした。
北の令嬢が身動ぎ背中が木の幹にぶつかった。
「――なっ」
掠れた声。
「――何してっ」
「虫だ。
「え?」
「虫がいた」
髪に虫がいた。だから虫を取ってやったんだ、と手を放す。
銀の髪は、さらりと元の場所へと舞い戻った。
その間も二人の瞳はぶつかったまま・・・。
「た、食べたの」
疑問型ではなかった。ただ口から出てしまった、という表情をしていた。
それが可笑しくて南の次男坊は笑ってしまった。それは決して、心を奪われるような爽やかな笑みではなくて、勝ち誇ったような笑みだった。
しかし、北の令嬢の前で笑ってしまったことにばつが悪く感じられ、直ぐに元の不機嫌な表情に戻る。北の令嬢も見開いた瞳を更に大きくした後、反らした。
「んな訳ねえだろ」とぼそりと呟いた後、南の次男坊は北の令嬢に向き直った。
「それで?何してんだ。兄貴も居ねえのに、見学なんて珍しいだろ」
兄貴というのはイリアの、兄である。
二十三歳になる彼は、正騎士業の傍ら見習い騎士達に稽古をつけていた。鬼教官と恐れられ、南の次男坊も彼を苦手としていた。
南の次男坊の言葉に我に返った北の令嬢は、今日の自分の予定を思い出そうとするかのように、一言一言区切って言う。
「そ、そうよ・・・。わたくしは、お兄様が、今日は、訓練所にいるって・・・、言うから、見に来たのよ」
「ちっ」
やっぱり兄貴か。
この女は二言目には『兄』『兄』とうるせー。
またイライラして来やがった。
「イリアの兄は団長に呼ばれて王城に行った。そろそ――――」
息を飲む。自然と背筋が伸びる。
戻って来やがった。
噂をすれば何とやらだ。
いつもありがとうございます♪
評価やブックマーク頂くと、やる気が出ます♪
ホントにありがとうございます!!
一ヶ所訂正しました。内容は変わりません。2016.2.22
虫は食べていないとの台詞を追加しました2016・6・1




