01 入学式
「さぁ、出来たよ」
お母さんが私の髪を三つ編みにしてくれた。
「せめて見た目だけでも女の子っぽくして……」だって。
「やっぱりランドセルが大きいや」
と笑うお兄ちゃんの言うとおり、私にはまだ大きい。それでも嬉しくて、カズ君が来る前からずっと背負っていた。
「おはよう、ミキちゃん」
「おはよう、カズ君」
カズ君は幼稚園のときみたいに不安がってなく、私と同じように嬉しそうだ。
「歩くランドセルが増えた」
お兄ちゃんがカズ君を見てまた笑った。写真を撮ると学校へ向かう。
小学校は幼稚園のすぐ近くなので今までと同じ道を行く。途中でレイ君も一緒になった。
小学校に着くと幼稚園よりもずっと広い庭と建物があって、教室へは6年生が連れていってくれた。
私は1組。レイ君が2組でカズ君が3組。またみんな違う組になってしまって、ガッカリしてしまった。でも教室へ行くと幼稚園で仲の良かったお友達がいたし、担任の先生も優しそうで安心した。
体育館で入学式があり、それが終わると教室で先生のお話を聞いて今日の学校は終わりになった。
「明日も一緒に帰ろう」
カズ君が帰り道に言ってきた。
朝は集団登校するけど、これからの帰りはお母さんのお迎えがない。
「いいよ……レイ君は?」
私は振り返ってレイ君に聞くと、レイ君は黙って頷いた。
「重いよ~」
次の日の朝、カズ君は大げさにフラフラした。
「うん、重いね」
昨日はほとんど何も入っていなかったけど、教科書やノートが入るとかなり重くなった。
「それはまだ少ない方だからね。頑張って」
お兄ちゃんは4年生でタカ兄ちゃんは3年生。二人ともランドセルとは別に手さげカバンを持っていた。
「さぁ、行こうか」
タカ兄ちゃんはカズ君の頭を軽くポンと叩くと、先に歩き出した。
「徹兄ちゃんはサッカー部?」
「そうだよ。来年、隆範はどうするの」
「野球チームに……」
私とカズ君の頭の上を話しが行き来していたけど、歩くのにいっぱいいっぱいで全然耳に入らなかった。
「おっ、歩くランドセル3号だ。おはよう」
ますや商店の前にレイ君を見つけると、お兄ちゃんが声を掛けた。
「なにそれ」
タカ兄ちゃんは大笑いしていたけど、レイ君は小さい声で「おはようございます」と言っただけだ。レイ君はお兄ちゃん達の前だと、私達とのように喋らなくなってしまう。キライではないのだけど緊張してしまうそうだ。
この後も少しずつ人が増えていって、小学校に着いた時には8人になっていた。
「今日、家にくる?」
げた箱の前でレイ君は、やっとあいさつ以外のことを話した。
「うん、行く。カズ君は?」
「行くよ~」
ピアノのお稽古があった次の日は必ず聞いてくる。練習した曲を聴かせたいみたい。
「新曲発表するから」
私達の返事を聞いたレイ君は、今日初めて笑った。
小学生になってそれぞれの友達と遊ぶことが増えても、この発表会は変わらず続いた。
レイ君はもっともっと上手になり、演奏を聴くのが本当に楽しかったからだ。