40 文化祭(1)
「無理しないで下さい、吉山先輩」
「俺達やるんで」
機材を運ぶ私に下級生コンビが声をかけてくれた。
「心配しなくても大丈夫。見た目より力あるから」
「そういうセリフは普通本人が言うんじゃない?」
先の返答はレイ君が勝手にしたのだ。
文化祭当日、今回も私は準備のために駆り出された。早朝の体育館に楽器を次々と運び入れ、機材のセットする。
最後のリハーサルも行う。
早朝の為カズ君の声は出切っていなかったけど、それ以外は良い演奏だった。
「緊張してきた」
坂井君はもう手に汗をかいているという。
「俺も。足がガクガクだ」
岡田君も情けない声だ。無理もない、下級生コンビは初舞台なのだから。
「今のように演奏すればいいんだよ」
カズ君はそんな二人に笑顔で言った。
もっともカズ君もステージはまだ3回目で、しかも今回は初ボーカルだ。いつもの笑顔も本当は微妙に硬い。
でも不安を煽らないようにか、自分が緊張している事を一言も口にしなかった。
「ステージに立つなら緊張して当たり前だ。それを感じないのは大して真剣じゃないって事さ」
みんなが緊張で気分が落ち込みかけている時、レイが静かに言った。
「俺だってコンクールの本番直前は、吐きそうになったり逃げ出したくなったりする事もある」
「レイ君も緊張するの?」
良い事を言ってる途中だけど、意外だったので私は思わず聞いてしまった。
「そりゃするよ」
レイ君は苦笑する。
「今はみんながガチガチになってるのを見てたら、かえって落ち着いたけど」
今度はレイ君以外が苦笑する番だ。
「だけど演奏中はそんな緊張が吹っ飛ぶ刺激が、演奏後にはとびきりの達成感がある」
レイ君の声は静かだけど力があった。
「その感覚は演奏技術に比例すると思ってる。俺達は必死で練習してきて最高の演奏が出来るんだ。だから楽しみにしてなよ」
自信に満ちたレイ君の言葉に、みんなの表情が一斉に明るくなる。
気が楽になったようだ。
レイ君はいつもステージで涼しい顔をしていたけど、本当はそうやって緊張と向き合ってきたようだ。その言葉には説得力があり、みんなの気持ちが持ち直したのが良く分かる。
「応援してるよ。聴いてる方にも刺激を与えるような演奏をしてね」
それぞれの教室に戻る前、私は岡田君と坂井君に言った。
「はい!」
「任せて下さい」
二人ともまだ緊張が残りつつも、さっきよりずっと元気な声だった。
教室へ向かう途中、カズ君もレイ君も黙ったままだ。でも重苦しさはなく、それぞれが静かに集中しているのだろう。
それは先を歩くカズ君が不意に振り返った時だ。硬さが消えて優しげな中にも凛とした眼差しの笑顔を見て確信した。
「カズ君、吹っ切れたみたいだね」
「レイ君のおかげだよ」
更に先を歩いていたレイ君も足を止め、私達を見た。
「結局自分自身の事だけど、お役に立てて何よりだ」
レイ君は素っ気無く言うものの、口元には笑みが浮かんでいた。




