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ただ咳をする  作者: haremame
廻編 第二章 月下日昇 災禍は来たる
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陽光差す雲海よ、涙を浚え Ⅱ

「じゃあ今日はハンバーグにしましょっか」



「ハンバーグ?やぁったぁ!!」



牛の繁殖に成功した今の南極において、牛肉を使ったハンバーグはさほど珍しいものではない。しかし母親は、夫が好きだった豚との合挽き肉を使って、いつも3人前を作るのだ。













「二人なら、十分に日ノ出と対抗できると思うよ」



クイナは俺達にそんなことを言っていた。

だけどクイナよ、お前に一つ言いたいことがある。







「危ねぇ!?」



「兄さん気を付けて!」



「どうしたどうした!逃げているだけじゃ勝てないぞ!」



一人で軍に匹敵する奴に、Tレックスまでついてくるなんて聞いてない!


曇天から降ってくるのは、水である雨とは真逆の炎の槍!よくわからんが地面もすげえ燃えてる!魔力である程度ガードできるとはいえ、この光と熱はやばい!


肌もチリチリしてくるし、息を吸うと喉が焼ける!眩しいから長い間目も開けてられねぇ!あと単純に暑い!体力の消耗がやばすぎる!いつもの半分程度のパフォーマンスしか出せないし、すぐにバテる!



何よりまずいのは来人だ。



「来人ッ!」



「兄さ‥‥‥ッカハ!」



来人は魔力を持っていない。俺と違って、本当の意味でその身一つなんだ。俺が魔力で守ろうにも、魔力中毒で先に死ぬ、手の打ちようがない!


というかそもそも俺が手を出す暇がない!



「こんのクソトカゲェッ!!いますぐそこどけぇ!!」



俺の目の前に立つクソトカゲもといTレックスもといルージュとかいう赫は、徹底して俺をマークしてきている。俺の攻撃は拳でぶん殴るだけだから、触れると溶かされる赫とは相性が悪い。


すぐそこで来人が苦しんでんのに、助けに行けない!




だが、俺は今この状況に一つの勝機を見出している。


崩せない城かと思いきや、その柱に爆弾がくっついてたみたいな感じだ!相手には誤算が三つほどある!


一つ目、魔力を有しているのが俺だけで、来人が魔力を所持していないこと!これは相手側にだけ有利かと思いきや、実はそうでもない。



「ルージュ、後ろだ!そいつではない!」



日ノ出は最初、ルージュに来人を狙うように指示を出した。だが、結果は見ての通り。ルージュのヘイトは来人ではなく俺に向いている。どうやら、相手はルージュとの連携がとれていないらしい。


しかも、ルージュは他の赫とは違い、存在を魔力で認識する。来人はいわば透明人間だ。相手はそれを最初知らなかった、これは大きなアドバンテージ足りうる!




二つ目、来人が持つ長ドスの能力をあっちは知らないこと!



「行くぜ来人ぉ!”スイッチ”だ!!」



「了解!」



赫に触れた物体はほぼ例外なく溶かされる。こいつらが地面に立っていられるのは、足にその性質を宿さないように調節しているとか‥‥‥よくわからん。あとこれは別に要らない知識だ。


まあ簡単に言えば、俺達はこいつに齧られるどころか、触れるだけで死んじまう。それに対抗するのがあの長ドスだ。



「突っ切らせてもらうぞ」



スタートダッシュは低姿勢から!俺をとらえようとするその大きな口を横にかわし、薙ぎ払われた尻尾は魔力を纏わせた拳で弾く!その時俺はちょうどお前の真下だ。お前は地面に横たわるだけで俺を潰せる。俺がどんなに逃げようとしても、足の一本は持っていける。


クイナみたいに俺達は不死身じゃない。足がなくなれば当然もう一回生えてこない。バランみたいに俺達は狂人じゃない。足がなくなればそも立てない。


だからこそ!



「くれてやる」



迫りくる赤い巨体、完全に避けるには後ろに下がるしかない。だが、俺が用があるのは前なんだ!全力で、走り抜ける!完璧に避けられねぇ、現に俺の左の足首より下が溶かされて無くなった!溶かされると血すら出ないんだな!



「頼んだぜ来人ぉ!」



「〘春霞〙【治癒】!」



居合切り。俺の膝下は、来人によって切り飛ばされる。おっと、間違えてくれるなよ日ノ出。俺達は気が狂ったんじゃない。わざと切ってもらったんだ。


振り抜かれた、その”緑色”の刃にな。



傷口が、淡く発光しながら塞がっていく。その際に出た光の粒子は俺の足を形取り、最終的に俺の足となる。これこそが来人の持つ〘春霞〙の能力【治癒】!切った相手を任意で回復させる!



「これのおかげで、俺達は半不死身だ」




さらに誤算三つ目ぇ!



「来人を侮りすぎだぜ?」



魔力がないからと侮るなかれ、こいつの万全は本当に恐ろしい!というよりも来人を育て上げたクイナが俺は恐ろしい!〘春霞〙のもう一つの能力【繚乱】。攻撃を二倍にし、時間差で炸裂させるというこの能力とクイナの技、”薙流”のシナジー!



「火は消しといてやる」



「ありがとう兄さん」



来人はその言葉を皮切りに、呼吸に意識を集中させる。氣とよばれる、特殊な呼吸だ。やり方を知っているのはクイナと来人だけ。ギイナもイティサも知らない。



「薙流刀術‥‥‥」



俺が魔力を散らしたことにより、周囲の炎は消え、また砂埃が舞う。


時が止まってしまったような静寂の中。





「【疾風迅雷】」





砂埃を引き裂く一閃が、ルージュの足を切り落とした。



「見えなかったろ?ただ、それだけじゃないんだぜ」



「なにを‥‥‥!?」



魔力を常に研究してきたお前ならわかるだろう。さっき俺を癒した緑色の刃と違って、青く光った刃の違いに。そして、〘春霞〙の発する魔力がルージュの全身を駆け巡っている事実に。



一閃は一度のみならず———



「【繚乱】」



二度閃く。



足を切り落とす。機動力を奪いながら、両断したという事実を記録するのに適した攻撃だ。【繚乱】は、スキルを発動する前の最新の斬撃を再現する。でも再現されるのは威力ではなく、その事実だ。


つまり今の場合は、両断したという事実を再現した、ということになる。



「結果は見ての通りだ。ルージュは両足と胴体、上顎を断たれて動けない。つまりお前は俺と来人を同時に二人で相手しないといけなくなった。かなり厳しいんじゃないか?」



実際、来人が氣を用いた薙流を使えるのは日に二度が限度だ。詳しいことはよくわからないが、氣の練がまだまだとか‥‥‥そんなことを言っていた。


今俺達が持つ最大の攻撃がその薙流、【疾風迅雷】だ。


二回のうち一回をすでに消費した。来人の体力も結構キテる。さっきと同じ速度は出せない。俺は決め手を持ってないから、サポート及び牽制に回るしかない。



この状態でもまだあちらが有利だ。動揺で集中が乱れてくれればそれで五分だ。



勝ち筋は見えていても、それを手繰るのがなかなかに難しい。


しかもダメ押しに、まだ問題がある。



「いくら斬ろうとあれは赫だ。時間があれば復活するだろ」



そう、あいつら何気に復活するんだよ。個体じゃなくて液体に近い組成してるからなのか、斬っても殴っても死にやしねえ。本当に燃やす以外殺す方法ないんじゃないか?



「ま、復活するまでの時間はあげねえけどな」



復活までのタイムリミット、これは判断を焦らせる。大体5分とにらんでいるが、それよりも早く。欲を言えば3分ほどで説得したい。


でもまあ焦る必要はないんじゃないかと思ってる。


だって、あっちの連携はなってない。もう一度復活しても、今度は俺が魔力を隠せばいい。



「うっし、そんじゃあ最後に一つ聞いておくぜ」



こっちの問題をいかに相手に見せないか、それを勝負じゃないかと俺は考えている。そういう意味なら、俺達は誰にも負けることはない。



「俺の、俺たちの仲間にならないか?」


















ナポレオンは言った。


真の敵は有能な敵ではなく、無能な味方であると。




孫氏は言った。


情報を制する者は戦いを制すと。




現状を表すのに二人の言葉を使うのならば、無能は私であり、情報を制したのは彼らになるのだろうか?断言しよう。それは間違いだ。



真の無能というものは、与えられた情報のみでしか判断できず、新しいものを得ようとしない心配性で臆病な奴らのことだ。彼は弟の実力をまだ把握しきれていない。最近まで彼にとっての弟は守るべき庇護対象だったのだろう。






その思考が、彼を縛っている。






「その問いに答えよう、五十嵐廻」



指を鳴らす行動。何か技を発動する際のアクションとしてよく用いられるが、現実においてもこれはなかなかに有用だ。指で鳴らした音に、魔力を乗せる。何も知らないものにはただの魔力の波長だが、知っている者には命令となる。



ルージュのベース、内田慎太郎は頭がいい。



その特性を、赫が引き継ぐほどに。



「却下する」



下した命令は、目の前の男を食い殺せ。







五十嵐来人、君は少々厄介そうだ。






















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