買い物はスマートにね、貪欲な女はみっともないわ
極悪ホステスの第七話です。
楽しんでいただければ幸いです。
私は生活が変わって快適に過ごしてた。
私が撒いた種が徐々に育っていって、公爵もシスコン兄弟もヘレナも私に親切にせざるを得なかったみたいね。
この間の観劇の時はやっぱり食事してる際中に、同じ劇場にいた貴族たちに目撃されたみたい。ショッピングではエイベル伯爵夫人に会って彼女は不思議そうに「クラリス嬢は?」と尋ね、その後ゴシップ好きのカンのよさでピンと来たみたい。
ナサニエルが話題を逸らしてもちゃんと夜会で皆に話したみたいね。
あの後3回くらい観劇に連れられて行ったけど、私も食事に連れられて行くか、そのまま皆で帰るようになったわ。
ショッピングの時はヘレナがアクセサリーやドレスや靴を買うから私は超ヒマって感じで椅子に座って待ってた。
なんでか?私とヨアンの結婚って貴族御用達の店の店員ってみんな知ってるの。大事な客だから。
だから私がヒマそうにしているだけで店員がめちゃくちゃ気を遣って私の方に話しかけてくるわけ。
「若奥様はいかがしますか?」ってね。
ーで、ヘレナのアクセサリーやドレスをニコニコしながら選んでたヨアンはどうする?
そう、一応仲良い夫婦を演じないと何があるか分からないから私にも何点か買うわけよ。ヘレナと同じくらいね。
でないと店員にこう思われるから。『え、コイツ、自分の妻のアクセサリーやドレスにこんな数とこんな種類のやつ選ぶの?妹にはあんな高価なやつ嬉々として選んでたくせに?ヤバくねこの家』ってね。
前に男って面目の生き物って言ったでしょ?ヘレナが高いものを選べば選ぶほど、私にも同じランクのものを与えないとならなくなったわけ。
さらに私はヨアンが言い出すまで沈黙している。
一度ヘレナが私に「クラリス、こういうのはどう?」って一番安いショボいアクセサリーを選んできたのをナサニエルが慌てて止めてたの面白かったわ。
だって宝石商からしたら私ってバカにされて雑な扱い受けているっていう風に見えるしね。
その日はナサニエルは「ヘレナ、家じゃないんだから冗談はやめなさい」って嘘ついて、ヘレナの提案をソッコー破棄して私にこの店で一番高価なアクセサリー買ってくれたわ。パライバトルマリンのやつ。
ヘレナは不服そうだった。私は素直に礼を言ったわ。
ナサニエルの眼を見たら『これで変なことは言わないだろう』って考えていた。まあバカ嫁だしね。パライバトルマリン買ってもらったって言うでしょうね。
私がそれを身につければ、の話だけど。
元々クラリスはテキトーにこき使っておけばいいって思ってた公爵家の男連中は困ってるみたいね。
私の態度が演技なのか本当にバカなのか分からないし、演技だとすればもっとヤバいことしそうだし、ってことで今までヘレナに割いていた金や時間をクラリスにも与えることになったから出費がかさんでめんどくせーって思ってるみたい。私、遠慮しないしね。
「そういえば今度の夜会用の口紅を買いに行きたいのですが」
久々のショッピングに連れられて行ったときに、私は珍しくそう言ってみた。
ナサニエルとヨアンは「ではカフェを出たら行こう」と言い、紅茶を飲んだ。
私はチーズケーキを食べていた。ヘレナは生クリームたっぷりのイチゴのケーキ。
うわあニキビできそうと私は表情を変えなかったけど、ヘレナのチョイスにマジかよって思ってた。
本当はケーキじゃなくて低カロリーの果物の盛り合わせでも頼もうかと思ったんだけど、ヘレナがケーキ選んだから仕方なく低カロリーのチーズケーキを選んだ。
お茶はハーブティー。砂糖は入れない。
カフェでのお茶を終えて、化粧品の専門店に行き、常連のヘレナに店員が笑顔で応対している時、私は1人で紅の色を選んでいた。
その時に店員の1人が「お客様、なにかお探しですか?」って言ってきたので私は普通に会釈して言ったの。
「ええ、口紅を選んでいるの。今度夜会がありますので」
「左様でございますか。ところでどのような夜会でございましょうか?」
「ああ、招待されて行く夜会よ。わたくしヨアン・ウィリアムズの妻ですからそれなりにしておかないと」
そう言った途端に店員は「少々お待ちくださいませ」と言い、去って行って、店長らしき人に話をし、私の元に帰ってきて「どうぞお座りになってください」と言って私を座らせて、店にある口紅全部を出してきて、鏡も置いて接客を始めた。
私が言うまでどっかの小金持ちの平民かな?って思ってたみたい。まあ素朴な小娘のメイクだしね。
そうしてこの色はどうかとかあの色はどうかとかいろいろ試されているうちに急に店員が減ったことに気づいたヘレナやシスコン兄弟は私の方を見てぎょっとしていたわ。
私は知らんふりして新色から夜会用にちょっと濃い色の口紅なんかを試しに塗ってもらってどうしようかと悩んでた。
夜会は女の集まりでもあるからあんまり小娘らしくても困る。
結局ちょい濃い目のローズピンクを選んで自分で金を払おうとしたときに、ヨアンが代わりに買ってくれた。
まあそうだわな。夫がそばにいるのに妻が自分で金出したら驚かれるしな。
私は「ありがとうございます、ヨアン様」っつって結局その紅一個だけ買って店を出た。
ナサニエルはどうしようか悩んでた。
別に買えばいいじゃん?ヘレナに贅沢させてやれよ。興味ねえし。
お読みいただきありがとうございました。
次の更新は明日になります。