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コンコンコン。

ドアをノックすると、何用ですか、と声がかかる。


「お食事をお持ちしました」

「……そう、ですか。分かりました。入ってきてください」

「失礼いたします」


まるで取引先の人と初めて出会うような、そんな緊張感を持ったままドアを開ける。

そこで俺は、彼女と目が合った。


此処から、俺達の運命の歯車は回り出したんだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……はぁ、……はぁ。あ~、腹減った……」


何も入っていない腹をさすりながら、大部屋へと戻る。

そこには既に、数人の先輩奴隷たちが戻ってきていた。


「お、戻って来たな。ほれ、今日の分の飯だ」


そう言って渡されたのは、数口で終わる固いパンと余り物を突っ込んだだけのスープ。

当然、味なんて期待できるものでもない。

生ごみ処理に体良く使われているだけだ。


――これなら、家の方が少しはマシな物が食えたかもしれない。

しかしそれを、自分で頭を振って否定する。

兄貴達との争奪戦に、俺が勝てる訳ない。結局、味の薄いスープを啜るだけだろう。


「……」

「何シケた面してんだ。食わねぇなら食っちまうぞ?」

「……食べないなんて言ってないだろ?」


考え事をしていたのを、食欲が無いとでも判断されたのか、隻眼の奴隷が話しかけて来る。

オレとは違って農奴である奴は、かなり逞しい体躯をしていた。

オレだってこの量じゃ物足りないんだ。奴らはもっとずっと足りないんだろう。

少しでも食べるのが遅いと、こうやってすぐ取りに来るんだ。


彼から少し距離を取り、一人で固いパンをスープにつけて食べる。

かなり食べにくいけれど、量が量であるだけにすぐ食べ終わってしまった。

自分の皿を持っていくと、既に鍋の中は空。その脇には皿がいくつも積み重なっていた。


「それじゃ、頼むな」

「……はい」


オレの肩を叩いた先輩は、すぐさま寝っ転がる。中には、既に寝息を立てているものもいた。

今日のオレの最後の仕事は、この皿と鍋を洗って食堂へと持っていくことだ。


先輩たちは簡単な仕事だと言うが、一緒にしないで欲しい。オレにとってはこれも十分な重労働だ。

俺の背丈ほどもある大鍋を、何とか持ち上げる。

それを洗い場まで持っていくと、今度は皿を持ってくる。

それらを洗い終わったオレは、またもや鍋、皿の順で炊事場の前まで持っていく。


「おせぇぞ!」


皿を持っていってすぐ、怒声を浴びた。

謝ろうとする前に皿を取り上げられ、炊事場へ引き返していく。

オレにとっては重労働だった大鍋も、簡単に担ぎ込まれてしまっていた。


バタン!

そのまま、扉が閉められる。

いきなりの事に少し唖然としたが、ここに居てももうすることが無い。

オレはため息をつきながら、大部屋へと引き返した。


戻った大部屋の中は地獄の様な様相を呈していた。

乱雑に、所狭しと並ぶ大人の身体。鳴り響く大いびき。


「……オレは、どこで寝ればいいんだよ?」


言葉を零すも、返ってくるのはいびきだけ。

何とか端っこの方に隅間を見つけ、丸くなる。


目を瞑ると、身体が重くなりドンドン意識が遠のいていく。

奈落へ落ちる様な感覚。

その感覚の隙間で、いつもの様に願う。

――もう、働きたくない。誰か、代わりに働いてくれ……。


それを最後に、俺の意識は暗闇に落ちていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ん~。今日もよく働いた~」


街灯の灯る住宅街を、特に感慨も無く歩く。

既に、何十年と繰り返し見てきた景色だ。今更何かを想うことは無い。

何かあるとすれば、仕事終わりの心地良い疲労感。


汗の滲む肌を優しく撫でる、夏の夜風が吹き抜ける。

それが何処からともなく、カレーのいい匂いを運んできた。


「お、今日はどこかの家はカレーかぁ。……俺も流石に腹減ったなぁ。……サオリはちゃんと食べてるかな?」


ふと心配になる、娘の事。

スマホを開く。画面に映る、高校の制服に身を包んだサオリの姿。

その隣には、卒業式の文字。


彼女はこの四月から、一人暮らしの為に家を出ている。

――もう彼女に、俺は必要無いのかもなぁ。


そんな事を思いながら、玄関の扉を開ける。


「ただいまー」


返ってくる声は無い。当然だ。

妻も既に天に昇っているし、他に子供も居ない。

返ってくるわけが無いんだ。

それでも未だに、家に帰れば自然と言葉が出ていた。


「さーて、なにに……ぉ?」


靴を脱いで、夕飯の事を考えながら立ち上がった時だった。

立ち眩みがして、その場に膝をつく。


(なんだ、これ……?)


――立ち上がれない。

上手く体に力が入らず、床に這いつくばる様に体が投げ出された。


視界が滲み、意識が遠くなっていく感覚。


(俺の身体に、何が起こってるんだ……?)


思考する暇もなく、唯々困惑だけが広がる。

遂には、俺の思考はシャットアウトされた様に、プツリと途切れた。


えー、お久しぶりです。

私です。

またもや、連載をスタートさせました。今度はどのくらいで失踪するんですかね?

いや、他のもいずれは完結させる気でいますが……。

今回のは、投稿頻度高い状態で維持したいですね。


良かったら、ブクマ&評価&感想&リアクション等、していってくれたら嬉しいです。

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