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奇鬼眼  作者: 駿河留守
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ワタシの目撃

「ない。どこにもないぞ。どこだ!」

 ワタシは焦る。どこにもないのだ。確かに手持ちのバックの中に入れたはずなのだが、どこにもない。あんな重要なものをどこかになくすというのは愚の骨頂だ。問題外だ。これでは持ち出した意味がない。

 ワタシが老夫婦を刺殺したのに使った刃物がどこにもない。家の中に落としたのなら拾われて元の場所に戻されていることだろう。それだったらいい。だが、現場または帰り道のどこかに落としたというならばそれはワタシの逃走経路をさらすことになってしまう。それにすでに二人の死体は司法解剖されている可能性が高い。そうなると殺害に使われた凶器がどんなものか推定されている。刃渡り、刃の種類とかだ。それと一致するものが道に落ちていたら、いくら血がついていなくても犯罪に使われた可能性があると疑われるのは間違いない。そこにはワタシの指紋が付いている。

 警察はどこかでワタシの痕跡を追いかけてこの家に来て何らかの形でワタシの指紋をとったのならそこでジ・エンドとなってしまう。

 あれからすでに日が暮れ始めている。ニュースは学校すぐそばで起きた凶悪な殺人事件ということだけあって時間がこれだけ経った夕方のニュースでも大々的に報道されているおかげで情報は簡単に手に入る。

 犯行時間は昨夜の未明。室内はかなり荒らされており、殺された夫のコートの中の財布の現金が抜き取られており、殺された妻の宝石類の一部がなくなっていることから窃盗目的の殺人事件だと結論づけられていた。

 警察も動きが早い。それもそうかもしれない。隣は中学校だ。いつ、生徒に被害が出るか分からないからな。

 だが、報道を見る限りでは犯人がどのような人物であるのか分かっていないようだ。凶器が見つかっていないことが不安だということもキャスターが伝えていた。つまり、まだ凶器は見つかっていない。

 とりあえず、おばさんに入手した金を渡してから刃物を探しに出かけよう。

 ちなみに盗んだ宝石は別々の店ですでに金に換えた。この町から少し離れた都会のどれも隠れ家みたいな汚い店だ。金はかなりの額が集まった。これをおばさんに怪しまれない程度に渡していくとして問題はない。ワタシの生活水準も入手した金でだいぶ上がる。とにかく、今は刃物探しだ。

 おばさんが疲れ切った顔で戻ってきてワタシは金を5千円ほど渡して手に入れた金を羽織った黒の革ジャンの内ポケットにすべて突っ込んで家を出る。耳を澄ませばパトカーのサイレンの音が聞こえる街中。言うほど都会でもないこの町で殺人事件が起きるというのは大事件なのだ。

 ワタシはフードで顔を隠した状態で逃げてきた道を辿りながら現場に向かう。目線は基本的に下を向いたまま、なるべく怪しまれずにごく自然にだ。

 だが、結局刃物は見つかることなく現場前にあるコンビニまでやってきてしまった。これ以上行くと捜査協力のために呼び止められそうだ。断るのも怪しまれるし、このまま引き返すのも不自然だと思いコンビニになんとなく寄る。

 立ち読みばかりされてヨレヨレになった雑誌を手に取って読むふりをする。

 これからワタシが捕まってしまう可能性をひとつずつ検討して消していこう。

 目撃者の可能性はなさそうだ。あれば、ワタシの近くに警察が来てもおかしくない。こっそり周りを見渡すが特にワタシを監視しているような人はいない。店員もワタシをまったく気にしている感じはない。これはなさそうだ。

 売った宝石類からのワタシを特定するのはどうだ?だが、ワタシが頼んだ鑑定所はどこも胡散臭いところばかりだ。大手のところに行けば、もしかしたらもっと高値で引き取ってくれたかもしれないが、あんな店に警察がやってくることもしばらくないだろう。そのころには店主もワタシのことなんか忘れているだろう。これもすぐにどうこうはないだろう。

 やはり、一番危険なのは失くした刃物だ。拾われた時点でかなりの証拠となってしまう。これを回収するのが優先かもしれない。だが、ワタシの辿った道にはどこにも落ちていなかった。冷静に考えるんだ。落とす可能性があるとすれば、やはりあの塀の向こう側に向かってバックを投げた時が一番可能性的には高い。となるとだ・・・・・・警察は学校側を捜査していないというのか?

 いや、そんなはずはない。ワタシだったら犯人が学校の中に潜伏している可能性だって考えるはずだ。おろらく、見回ったはずだ。あの家に隣接するあの場所も調べたはずだ。見つかってもおかしくない。それでも見つかっていないというのはどうしてだ?

 考えられる可能性は3つ。

 まずは家の中で落としたという可能性。これは後でワタシが家の中を探せばいい。

 二つ目は警察の見落としだ。そうだとするならば、危険だが回収しに行く必要があるかもしれない。

 そして、三つ目だが、これは誰かが拾ったというものだ。誰かというのは警察ではない誰か。つまり、あの学校の生徒つまり中学生が拾い隠し持っている可能性だ。

 だが、後者の二つは圧倒的に可能性は低い。

 家の中を探しに行くか。

 そう決意して雑誌を元に戻す。そこで背後からぎろりとまるで蛇のような鋭い瞳をした者の視線を感じた。振り返ってもそこにあったのはウサギの写真がプリントされたティッシュだった。

 ホッとする。まさか、プリントされた目に驚くとはワタシもだいぶ焦っているようだ。

 そこで置いた雑誌の方に目が行く。ワタシの痕跡を少しでも消した方がいい。可能性は少ない方がいい。雑誌にはワタシの指紋が今付いたばかりだ。

「・・・・・・・・・」

 しばらく悩んだ末に雑誌をレジに持っていく。

「あの・・・・・もう少しきれいなものが棚にあったと思うんですけど・・・・・」

 親切なバイトが教えてくれた。ワタシは雑誌がほしいわけじゃないのだ。

「それでいいんです」

 そう言い張って金を出す。

 というかこれは逆に店側に変な印象を与えてしまったかもしれない。失敗だったかもしれないなと若干の後悔を胸の内に秘めながらぼろぼろの雑誌の入った袋とお釣りを受け取り店を出る。

 その時にすれ違った紺のマフラーを巻いたセーラー服の女の子。セミロングの髪を結んで髪が耳にかからないようにした校則をしっかり守った気真面目そうな子だったが、容姿は中の上くらいでかわいらしい女の子だった。

 この時はお互いになんとも思っていない。

 だが、それがワタシたちの知らない出会いだったのかもしれない。彼女との出会いだ。

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