ボクの行為
ボクの名前は山田。市内の中学に通う女の子だ。なぜ、一人称がボクなのか。それは上4人の兄弟がみんな男で母がボクを生んですぐになくなってしまったので男しかいない家の中でそんな一人称になってしまったのだ。でも、別に気にしないでほしい。いろんな人にツッコまれるけど気にしていられない。
さて、そんなボクは今の現状がすごく気に入らない。父が海外赴任で4人の兄と5人で暮らしている。家に帰ればまず洗濯物を取り込む。そして、帰って来る兄たちのためにご飯を作る。それを食べたらお風呂場を掃除してお湯を貯めたら、溜まった食器を洗ってから取り込まれた洗濯物を畳んでそれぞれの部屋に持っていく。その後、少しテレビを見たらすぐにお風呂に入る。テレビの時間は本の数分で内容なんて分からないままだ。お風呂も一番最後だ。冬の最後のお風呂は体が温まった気がしない。それから、寝るまでは学校の宿題を片づける。それで就寝。こんな同じような生活を続けている。学校のない土日になれば家の掃除や買い出しなどの家事で一日がつぶれる。家のことを男たちは誰もやらない、やろうとしない。まるで誰かに決められたかのように1日が過ぎることにボクは嫌気がさしていた。何かもっと何か別のおもしろい出来事でも起きないかなって考える。
朝、ほぼ逆らえない目覚ましの音に目覚める。そして、今日も何も変わらない1日が始まる。家族の朝ごはんを作り、弁当を作り、洗濯物を干してから学校に向かう。
何も変わらない快晴の空。別に洗濯物の心配をしているわけではない。この前、友達にボクの現状を伝えたら「なら、やりたくないっていえばいいじゃん」って言われた。そうだよね。そういえばいいのに言えないの。あの家に流れる時間や流れからはもう逆らえない。それに男どもにボクの普段やる家事を任せたらきっと何もできずにボクがやる羽目になる。そう、ボクはあいつらがすでに何もできないことを分かっているのだ。
この日常のサイクルからはもう逃げだせない。このサイクルから抜け出すのだとしたら何かボクを完璧に壊すような何かとんでもないことでも起きないと・・・・・。
その日は学校の校門付近ではパトカーが何台も止まっていて騒然としていた。警察官が何人もいて何かを警戒していた。何かいつも違う光景に興奮した。何があったのかすぐに校門に立っていた警察官に聞いたところ、ボクの通う中学に隣接する家の夫婦が死体で見つかったらしいのだ。
その家は学校内でもそれなりに話題になる大きな家でお金持ちの家だ。そんな家の人が殺された。労わるべきなんだろうけど、ボクの知る日常に起きた過激的なことに興奮が止まらなかった。どんな殺され方をしたんだろうとか、いったい何の目的で殺されたんだろうかといろんなことが頭の中を駆け巡る。
ボクはすぐにその豪邸と学校の敷地が隣接する自転車置き場の方に駆け込む。そこはまだ、警察の人が入ってきていなくて規制されていなかった。
豪邸の塀際にやって来た。特に変わった様子のない塀。おしゃれなのか穴が空いていて昇ろうと思えば登れそうだけど、身長が足りなくて昇ることはできない。それにここに住んでいる人はすごく怖い人らしくてよほどのバカでなければ登ろうとしない。
ボクの興奮はここで終わってしまった。なぜなら、この塀の向こう側にボクの見たことのない死体があるかもしれないのにそんな感じがしない。雰囲気がない。まるで世界がボクにはこれ以上この塀の向こう側に行くなって言っているかのようだ。
つまんない。今の現状もボクの同じような日常も機械的送る毎日も何もつまらない。楽しくない。暇だ。退屈だ。こんなボクの世界なんか壊れればいいのに。
後退りすると何かつまずいて尻餅をついてこける。手のついた先は雑草が好き放題に生えるところ。
最悪と思って泥を払いながら立ち上がると手の甲が切れていた。なんでと思って草むらをかき分けてみるとそこに落ちていたのは刃物だった。ボクの血が刃先についている。どうしてこんなものが落ちているのか。
そんなものは決まっている。
疑問はすぐに吹き飛んだ。ボクは高い塀の向こう側を見つめるように刃物を手に取る。
なんだ。ボクはもうそっちの世界にいるじゃないか。
すると校舎の影から足音が聞こえた。誰がやって来たのかは明確だ。警察官だ。この学校に隣接する塀の外側にも何か証拠がないかと探しに来ているんだ。今、これを渡せばせっかくのボクの外れた日常が壊れていつも通りになってしまう。
それが嫌だった。
ボクは刃物をタオルに包んでその場から逃げ出す。
そのボクの行為のせいで事件は迷宮入りするとも知らずに。




