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奇鬼眼  作者: 駿河留守
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ワタシの行為

 ワタシの名前は相葉という。市内に住んでいる19歳の男だ。一人称がワタシというのは癖というかなんというか、まぁ、気にしないでくれ。気付いたらこうなっていた。ワタシ、相葉は結論から言ってしまえば金に困っていた。高校を卒業後、職には就かず無職の身として現在まで生活してきた。だが、半年前にワタシが身を置いていた親戚のおじさんが事業に失敗し借金を抱えた。そのせいでおじさんは自殺してしまった。その借金を返すためにおばさんは死に物狂いで働き、結婚したばかりのワタシの従姉は稼いだ資金を借金に当てる羽目になっていた。

 生活もぎりぎりまで切り詰めていたがそれでも金が足りなかった。減るどころか利子のせいで借金の減りは異常に遅かった。取り立て屋が毎日のように玄関の扉を叩き続ける。「奥さん!いるのは分かっているんですよ!開けてください!」とか優しく語りかけながらも内心はイライラしながら扉を叩いていた。

 そして、ただ金をむさぼるだけのワタシにもついに借金話が流れてきた。おばさんはただワタシに働けと言った。だが、ワタシに働く意思は存在していない。だから、手っ取り早く金を稼ぐ方法を考えた。

 それがワタシの置かれてしまった人生最悪の状況だ。

 目の前に転がっているのは肩から胸にかけて大量の血を流して倒れる老いた男と首筋から血を流して倒れるその妻と思われる老いた女だ。ワタシの手には血に染まった刃物が握られていた。小刻みに震えてなぜ目の前がこんなことになってしまっているのか理解できなかった。暖房の利いた暖かな部屋だった。そこだけ記憶が飛んでしまったかのように。

 それでもその目を開けたまま身動き一つしないふたりの死体を見てワタシの記憶は少しずつ戻っていく。

 ワタシは金を借りるためにとある豪邸の家を訪れた。

 それはワタシが中学生の時に学校に隣接するとんでもない豪邸が非常に印象的だったのを覚えていたからだ。しかも、ワタシが中学生だった時点で住んでいるのは老夫婦だけだった。それは今も変わっていなかった。

 ただ、家が立派で金を借りやすそうという理由だけでその家を深夜に訪れた。

 答えはもちろん、「なぜ、見ず知らずのお前に金など貸さなければならないんだよ」って断られた。そうだよな。当たり前だよな。それが普通の人間の回答だ。だが、その時のワタシは普通ではなかった。ワタシの生活水準は下の下だった。それに比べてこの老夫婦の生活は上の上だった。車庫から見えた車を売ってしまえば、ワタシたちの借金が返済できるだけでなくお釣りが返ってきそうな代物だ。そんな生活をして余裕もあるのになぜ助けてくれないのか訳が分からなかった。

 だから、ワタシは無理やり二人の家に入り何か金目のものを奪って行こうとした。だが、もちろんそんなことをすれば止められる。それが腹立たしくて持ってきていた刃物で夫を殺した。本当に軽いはずみだった。それを見て青ざめて動けなくなっていた妻の方も殺した方が金目のものを盗みやすいと思ってそのまま首筋を切った。

 そして、現状に至る。自分がやってしまったことを強く後悔をした。だが、やってしまったのならばもうどうしようもない。

 時刻は午後8時を過ぎたところだった。

 ワタシはまず血の付いた服をその家の立派な洗濯機を使って洗い、乾燥機も使って洗った。洗っている間に手袋をして金目のものを漁る。部屋の明かりはなるべく生活感を出した状態を保つ前にリビングは付けっぱなしにして他の部屋もこまめな付け消しはしないように心掛けた。とりあえず、殺した夫のコートの中から財布を取り出して金をもぎ取る。20万入っていた。妻の化粧台の引き出しから宝石類を盗んだ。

 物色した部屋は散乱してしまい片付ける気はもうなかった。そして、時刻は午前0時を回り日付が変わった。電気を切り家全体を暗くした。ワタシは洗濯した服を着て最後に殺した老夫婦を一カ所の部屋にまとめる。発見を少しでも遅くするための浅知恵だ。そして、凶器をどうするか悩んだ。血痕は洗い流したが、この家の物でないのを置いていくのは証拠を残すこととなる。

 だから、持ち帰ることにした。広い庭の正面からは出ずに裏の高い塀をよじ登って脱出する。金や宝石類、凶器が入っているショルダーバックを塀の向こう側に投げ捨てて両手が空いたところで壁をよじ登る。おしゃれのつもりで開いていた穴が中学に通っていた頃から昇りやすそうだと思っていたがまさにその通りだった。

 豪邸の敷地から出るとそこは学校の校舎裏。自転車置き場に指定された場所だ。そこに着地して先に投げ捨てたバックを拾い家に帰る。正面から出れば、疑われるが学校側から出れば大丈夫だと踏んだ。

 この瞬間まで俺を目撃した者は誰もいなかった。適当に行っていた俺の行為は奇跡的にも警察の捜査を振り切れることとなってしまった。だが、ひとつだけ犯したワタシの大きなミス。塀の外に向かって投げた持ち物が一部散らかってしまった。その時は特に気に留めなかったが、ひとつ重要なものを拾い忘れていたのだ。

 凶器だ。

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