ボクは語る
ボクの心境はいつも真っ暗な出口のないトンネルの中に閉じ込められていた。別にその中に強制されて入っているわけじゃない。ただ、周りに逆らうだけの力がなくて―――トンネルの中から出る力がなかっただけ。無理に出ようとしたら―――無理に今の現状から逃げ出せばどうなるか分からない。
「ボクには4人の兄がいるんだよ」
クモのボスを倒してからステージが次へと移り変わり襲い掛かってくる敵の攻撃パターンが変わってきて対応に追われる。相葉さんはただその敵を攻撃しながらで聞いているかどうかも分からない。でも、ボクは続ける。
「母はボクが幼いころに死んじゃって、父も海外赴任で家には兄弟で住んでる」
効率よく敵を倒している相葉さんに対してボクは乱雑な攻撃ばかりでダメージを食らっていくけど気にせずに進める。
「兄たちは家のことを何もやらない。ボクがやらないと家のことは何もできない。決まった生活資金では到底生活することが出来ない。だから、自然と家事全般はすべて僕がやることになった」
「それは強制なのか?」
ゲームに集中しているようでしっかり僕の話を聞いていたようだ。変化のない生活のことを話した時に家事という言葉が2回でてきたところを聞いていたみたいだ。
「強制じゃない。でも、ボクがやることになっている気がする。見えない鎖がボクを縛り上げて自由を奪うんだ」
突如現れた今まで見たことのない敵が攻撃してきた。ボクはその攻撃を銃で撃ち落とし切れずにくらってしまうと銃が固定されてしまって左右に動かせなくなってしまった。対して相葉さんはしっかり撃ち落としてボクのカバーできない場所の敵を攻撃してくれる。
「最初から拒否していればよかったんだ。でも、誰もやらない現状を見てやらないとって言う考えの方が強くていつの間にかこうなってたんだよ」
「止めようとか思わなかったのか?もしくは少しくらい手伝えとか言えなかったのか?」
相葉さんもボクの友達と同じことを言うんだね。でも、その疑問に対する回答はすでに用意されている。
「無理だった」
まだ見ぬ相葉さんを探しに行くときに家事全般を任せた時の家の現状。
「言われたことすらまともにやらない。ボクがやることが当たり前でやらなければ怒られる。この理不尽な状況から何度も抜け出そうとしたよ!何度も!何度も!」
拘束された銃を強引に動かそうとするけどびくともしない。
「ボクがほしかったのは確かに不安定で過激な日常だよ!でも、それ以上にもっとほしいものがあったんだよ!それは誰もが持っている自由だよ!自由に遊びに行きたい、自由に学校帰りに寄り道したい、本当は部活もやりたかった、兄たちは好き放題やってるのになんでボクには・・・・・ボクには・・・・・」
拘束時間が解除されて再び自由となった銃を左右に動かして敵を倒していく。
「でも、お前はここにいて自由の身じゃないのか?」
「・・・・・・」
「そもそも、お前は少し硬く考えすぎじゃないのか?そんな家庭の現状はお前の勇気とそれに見合った行動さえあればどうにでもなることだ。ワタシの置かれた現状は本当に今まで求めていた安定を欠いてでもしないと打開することが出来ないことだった」
それが出来たら・・・・・それが出来ないから!
そう言いかえす前に相葉さんが優しくボクに語る。
「できないのなら・・・・・助けになってやるよ」
「・・・・・え?」
ボクはつい攻撃する手を止めてしまった。
「ワタシにとってもそれは安定とは言わない。縛られて自由に過ごせないというのはそれはただの拘束以外に何もない。それではお前の言うように心が壊れる可能性のある非常に不安定なことだ」
気付けばボクのHPがなくなってしまってゲームオーバーになってしまって相葉さんがひとりがんばっている。
「変化のない静かな生活というものは確かにつまらないかもしれない。ワタシにとっての安定は毎日同じことを繰り返すことではない。自由に好きなことをこなして楽しく穏やかな生活を続けるということだ」
結局、二人分の攻撃を防ぎきれなかった相葉さんもゲームオーバーとなってしまった。
「ワタシだけじゃなくともそんな生活を嫌がるのは当然だ。だから、ワタシはお前の救いになってやろう。何にも縛られないようにワタシが助けてやろう。これはお前のその眼で脅されたからじゃない。その女の子のお前の方が好きだからだ。だから、そんな顔をするな」
気付けばボクはぼろぼろと涙が出ていた拭いても拭いても止まらない涙。
「辛いことを飲み込む必要はない。吐き出せ。ワタシには言うほど強い力があるわけじゃないが、その涙を拭いてやることと・・・・・そうだな、話を聞いてやることくらいしかやってられない。だから、我慢するな」
そう言われると押さえている涙が止められなくてそれをごまかすために相葉さんの胸に飛び込んだ。コンテニューをするために相葉さんは財布を取り出してコインを入れる。ボクが泣き止むまで誰にもこの涙を見せないためにずっとゲームをしてくれた。
うれしかったんだ。辛さを受け止めてくれる人が。
相葉さんはボクが思っていた通りの人のそれ以上の人だった。ボクに自由を与える勇気をくれた、ボクにつらいことを吐き出せと背中をさすってくれた、こんな理不尽な現実に押しつぶされそうなボクを救ってくれた。それがうれしくてうれしくてずっと泣いていた。涙が声がかれるまでボクはずっと泣き続けた。
そこでボクは本当に相葉というと男の人を好きになった。
「ボクを自由を勇気をくれてありがとう。大好きだよ、相葉さん」
その時の相葉さんの顔が照れて赤くなっているなんてボクは知らない。でも、この泣いている時間が幸せだった。




