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奇鬼眼  作者: 駿河留守
14/25

ワタシに語る

「はいはい。髪の毛も整えましょうね~」

「ワタシはいつからお前の着せ替え人形になったんだ?」

「言ってやらないからでしょ」

 それを言われると何も言い返せない。

 少女、山田に言われるがままに服を買いトイレで着替えた。しかし、髪が乱れすぎだという指摘を受けて百均でブラシを買ってきてこうして髪を整えている。

「・・・・・こうしてみると結構男前だね」

「お世辞はその辺にしてこれからどうするんだ?」

「ゲーセン行こう!」

 即答かよ。

 高校の頃は毎日のようにゲーセンに通っていた。それは叔父さんもまだ生きていて安定的にワタシに小遣いをくれたから時期だったからだ。しかし、結局のところ今は資金的な問題もあってかそうも言っていられなくなってしまった。なので行くのは本当に数年ぶりだ。

「懐にもそれなりに余裕があるし行って損はない」

「よし、行くか」

「お。相葉さんにしては前向きだね」

 ワタシだってたまには前向きになることだってある。

 買った服を入れていた袋に元々来ていたジャージと革ジャンを入れる。丁寧に畳まれた服はすんなり袋の中に入りかさばることもなかった。この少女、山田はそういう家事系統にかなり慣れている感じがした。

 ゲーセンは今いるショッピングセンターとは別の建物になる。一度外に出てからゲーセンに入ると休日ということもあってかそれなりに人がいて混み合っている。

「で、どれで遊ぶんだ?」

「そうだね・・・・・。じゃあ、あれにしよう!」

 そういって選んだのは車の形を小さな個室のように出入り口が布で覆われている中が見えないようになっているゲームだ。中を覗くと椅子があり固定された銃の形をした者が設置されていたのでシューティングゲームだろう。車に乗ってこの銃を撃ちながら移動するタイプの物だろう。

「でも、なんか外のデザイン見ると気持ち悪い虫とか出てくるやつだが大丈夫なのか?」

 女の子には苦手そうな感じに見えなくもない。

「大丈夫。こういうのは好きだから」

 椅子の上を四つ這いに屈みながら奥に進む。角度的に尻がこちらに向かれているので・・・・・そのすごくエロい格好だ。

 その尻から目を外してワタシも隣に座る。ゲーセンにおいて個室のようになっているこのゲームは周りから見られることもないし音で声も掻き消されている。だから、声に出しても何の問題もないだろうと思い普通に話す。

「まぁ、殺人犯といっしょにデートするような女だ。平気だろうな」

「お、分かってるじゃん!」

 すると少女、山田は自然にゲームに金を入れた。

「あれ?お前が払うのか?」

「これくらいはボクのお金でもいいよ。相葉さんのお金の事情は結構深刻そうだったし」

 ほう、こんな少女にも人のことを考える時もあるのか。弱みを握りワタシの言いなりにしている少女、山田にも良い一面があるんだな。いや、元々そういう子なのかもしれない。ワタシが殺人犯であるがためにその一面がなかなか目立たないだけで。

「シュッパーツ!ほら!相葉さんも!」

「お、おー」

 こういうところにハイテンションになるのも子供らしい。横目で見る少女、山田の素顔は本当に子どもそのものだ。彼氏としてではなく親としてそう感じてしまう部分もある。ニートのワタシに言えた身ではないが。

「ほら!虫が飛んできた!キモい!」

 撃ちまくって襲い掛かってくる敵を倒していく。ワタシもそれに加勢する。わぁ!とかはは!とか騒ぎながら楽しんでいる。するとそのテンションのままワタシに語る。

「こういうところだから少し話しやすいと思うんだけどさ!」

「何が?」

「相葉さんはどうしてあの老夫婦を選んだの!」

 どうして殺したのはあの老夫婦なのかと聞きたいのだろう。いくら個室で周りの音が大きくて聞き取りずらくても簡単に口にはしない。気が利いている。

「ワタシもお前と同じ中学を出ている。その時にこの家は絶対に金持だなって確信があった」

「でも、お金に困ってるなら友達とかにも借りれたじゃん!」

「借りられたとしても借金が減るわけじゃない」

 そもそも、そんな友達はいない。

「それに最初から金は奪う気だった。適当にナイフで脅して奪って逃げるつもりだった」

「でも、殺したんでしょ?」

「まぁな。結果的にはそっちの方がよかった」

 前者のような行動を起こしていれば俺は今頃牢獄の中だ。

「前々から聞いてみたかったんだけ、ど!」

 すぐ正面まで弾幕をすり抜けてきた敵を慌てて撃ち倒した。

「殺しをした時の感覚はどうだったの?」

 その時の少女、山田の眼はやはり鬼だった。彼女にはふたつの顔がある。少女、山田の時と鬼の時だ。ワタシを脅すときは基本的には鬼だ。しかし、彼女はどちらの自分も嫌っておらずむしろ認め合っている感じがする。少女と鬼。美女と野獣みたいな組み合わせだ。

「殺した時の記憶は一度飛んでいてあいまいだが・・・・・決して気持ちのいいものじゃなかった」

 それだけは言える。

 最初のステージをクリアしてすでにワタシのHPは3分の1が削れていた。

「だが、殺した後は妙に冷静だった。冷静に血を洗い金品を盗み玄関からは逃げずに裏の塀を飛び越えて逃げた。指紋も残さないように手袋もした。その後の金品を売りさばくのも捜査の手が伸びなさそうなところを選んだ。冷静だったが決して完璧ではないと思っていた」

「でも、完璧になっちゃったんだよね」

 そういうことだ。

「正直、殺す気なんかなかった」

 ワタシは押しかかってくる虫たちを銃で撃ち落として安定的に一掃していく。

「ただ、安定がほしかった。今の借金まみれの生活には安定なんてどこにもなかった。安定を得るためにどこかで大きなリスクを背負う必要がある」

「それが殺人だったんだね」

「そういうことだ」

 しかし、本当にそれでよかったのか考えることもある。もし、どこかにほころびがあって警察がワタシにまでたどり着いたときにワタシの求めていた安定は消え去ることになる。そのほころびのひとつが凶器を落としたということだ。少女、山田に拾われたおかげでこうして安定をまだ保っているが未だに不安定極まりないのは変わらない。

「ボクはその安定がほしいっていうのは理解できないな」

「そりゃそうだろうな。こんなワタシと恋人になりたいとか言っている時点で安定なんて存在しないだろう。殺されるかもしれないとか感じないのか?」

 最初に思った疑問である。

「あったよ。でも、それがまたたまらない」

 何を言っているのか理解できない。

 ゲームは巨大なクモのボスが現れてひたすらボスを攻撃する。弱点があり、そこを集中して攻撃していると怯んでくれる。これだったら安定的に攻略できそうだ。

「ボクの生活は安定だったのかもしれない。でも、何も変化のない。つまらないものだったよ。このクモを倒すみたいに。起きて家事をやって学校に行って家事をやって寝る。それだけをボクは毎日繰り返してきた。何もしないとね・・・・・」

 あっさりと倒せたクモを祝うようにファンファーレが鳴り響く。

 それとは違うトーンと雰囲気で彼女は言う。

「心が壊れちゃうんだよ」

 奇妙な鬼の眼はワタシにそう語った。

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