ボクとデート
ボクにとって休日というものは存在しなかった。物心ついたころからボクは家事をやっていたイメージが非常に強い。ほぼ、使命感におぼれたように毎日のように同じことを繰り返してきた。ボクがまだ小さい時は兄たちも手伝っていた記憶が薄く残っているけど、今の全く何もしない現状の記憶の方が強すぎてそんな良い記憶はあってないようなものなのだ。本とかで読んでいると出てくる幸せで豊かな家族の光景はお父さんが働きに出て、その帰りをお母さんは家事と子育てをしながら待つというものだ。ほほえましいというのがイメージだけど、実際にそれに近いことを経験してみると分かる。男というのは身勝手で自分のことしか考えていない。
でも、相葉さんは違う。ボクを自由にしてくれた、枷を壊してくれた救世主だ。
「こんなのはどう?」
「どうと言われても・・・・・」
「じゃあ、これも試着しに行こう!すみませ~ん!」
これで何度目だよって店員も相葉さんも思っている。相葉さんは本当に服のセンスがないというか面倒がって自分からは服を選ぼうとしてくれない。ボク的にはゲームセンタとかで遊びたいんだけどそれなり気合を入れてきた服装とまったく気合の入っていない部屋着に革ジャン来ただけの人とではなんか釣り合わない。
ぼさぼさの髪にヨレヨレのジャージを着ているせいで分からないだけかもしれないけど、身長も結構あるし中肉でほっそりとしたスタイルのいい感じの人だ。ちゃんと磨いてあげればダイヤになる前の原石と言ってもいい感じの人だ。服はとりあえずボクが何とかしてあげよう。
「よし!これとこれを着合わせてみよう!」
「上はどうせ革ジャンで隠れるからそこまでこだわる必要は・・・・・」
「見えないところで努力するのが重要なんだよ。勉強も部活もそうだよ」
「努力する気なんかさらさら」
「いいからレッツゴウ!」
服を持たせて背を押して試着室に押し入れてカーテンを閉める。普通のデートだったら女の子の方が服を着合わせて男の子がそれはいいとか悪いとか言う気がするんだけど、まぁこの際いっか。
「今が一番楽しいし」
すると店先で警察官が店の中を覗いていた。学校にほど近く殺人現場からも近いこのショッピングセンターに凶悪殺人犯が潜伏している可能性もあるからだ。テレビではその犯人像はまったく分かっていない感じのことを報道していた。それが本当なのかは分からないけど実際に見事に証拠を消されているところを見ると相手は殺人に手馴れているのではないかと適当なタレントがコメンテーターとして言っていた。でも、実際には普通の人なんだな。
警察官は異常がないと判断したのか行ってしまった。ちょうど、相葉さんは試着中でよかった。変に取り乱していたら疑われていたかもしれない。店の中の物を見渡しながら待っていると相葉さんがボクのチョイスした服で出てきた。
「ど、どうだ?」
ちょっと気恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。細い足を強調するようなジーパンに中の襟にの広いプリント長そでのTシャツの黒のシャツの普通のシャツ、その上に紺色のジャッケットを羽織っている。
「うん!いい感じ!」
「そ、それはどうも」
「じゃあ、脱いでそれを丸々買ってトイレとかで着替えよう」
試着室の隅に転がっているジャージは買った時に出た袋に押し込んで持ち運べば邪魔にならない。
「早く早く。これからボクの服を選びに行ってそれからゲーセン行ってそれからお昼食べてアイス食べてゲーセン行って」
「おいおい!待て待て!」
「相葉さんには拒否権なんかないよ」
「・・・・・それは分かっているが、ワタシの手に入れた金はそんなお前ばかりには使っていられない」
「なんで?言ったでしょ?拒否権はないって」
相葉さんは怯えたようにそれ以上何も言い返せなかった。
これからデートのためにいっぱい遊ぶんだ。それが楽しみでわくわくする。だから、楽しい。
今みたいに殺人犯である身分を隠している相手に脅して言いなりさせているところもぞくぞくしてたまらない。楽しい。
その二つの楽しさを与えてくれる相葉さんのことをボクは大好きなんだ。
出会ったのは昨日のことだけど異性としてずっと前から会うことをボクは望んでいた。それが叶った今、ボクはなんて幸せ者なんだ。
相葉さんが解放してくれたおかげでボクを縛る人は誰もいない。




