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帰向  作者: 凛光穂
第一巻 過ちを許される世界

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無知な少年時代 その二

 藍寸(ランスン)は秉核(ヘイカク)の様子を見て、非常に満足した。

 微笑みながら、少し大げさな口調で言った。

「坊ちゃん、これはあなたにはまだ危険すぎます。ここは帝都とは違って、医者の技術には限りがあるんです」


 秉核(ヘイカク)は慌てて頷きながら言った。

「はい、はい、分かった。見ないなら見ないでいい。私はここに来たのは、ええと、何のためでしたっけ?」


 秉核(ヘイカク)は頭をこすった。ある特殊な理由(チート機能)のため、銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)は物忘れが激しかった。


 執事はうつむきながら言った。

「坊ちゃん、武器を見に来られたのでしょう」


「そうそう、私は銃を見に来たんだ。そう、リモコンロケット弾も」と銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)は言った。銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)は藍寸(ランスン)を指差して聞いた。

「知ってる?」


 藍寸(ランスン)は胸の前で手を組み、軽く会釈して言った。

「ご案内させていただくことを光栄に思います」


 数分歩いた後、秉核(ヘイカク)は突然足を止めた。

 みんなもそれに倣って、歩みを止めた。


 秉核(ヘイカク)は頭を撫でながら、不機嫌そうに振り返って言った。「待て、今のお前の礼儀作法は間違っているぞ」(藍寸(ランスン)がさっきしたお辞儀は、お嬢様を招待する時の礼だった。)


 藍寸(ランスン)は驚いたふりをして、傍らの使用人を見た。

 使用人は手を広げて肩をすくめた。


 この機械技師は、怒った様子の秉核(ヘイカク)を見て、わけもなく頷いた。


 秉核(ヘイカク)は怒って飛び跳ね、指をさして藍寸(ランスン)に言った。「私は女の子じゃない。お前の二度目はわざとだ。いや、私の髪型は男の子のだから、最初からわざとだったな」(秉核(ヘイカク)はまだ五歳で、五歳の脳では四則演算も苦手で、思考速度が非常に遅く、反射神経が極めて長い。)


 ただ秉核(ヘイカク)は忘れていた。今の自分の年齢では、怒って跳ね回っても、他人の目にはまったく凶悪には映らない。むしろ「凶萌(きょうもえ)」といった感じなのだ。周囲の人々は口元をゆるめ、笑いをこらえるのに必死だった。


『間違い』を犯したと「自覚」した藍寸(ランスン)は、笑いをこらえながら困った表情を見せ、もう一度頭を下げて謝った。ただ、秉核(ヘイカク)以外の全員が気づいていたとおり、その謝り方はまるで子供をなだめるようだった。


「ふんっ」秉核(ヘイカク)は頭をぴんと上げた。

 柔らかく甘い声のまま、精一杯威勢よく言った。

「案内しろ」


「ぷっ」

 とうとう我慢できなくなった誰かが、くすりと笑い声を漏らした。


 笑い声を聞いて、秉核(ヘイカク)は少し腹が立った。抑えきれない怒りに駆られて、傍らの機械を蹴り飛ばしたが、力が入りすぎて自分が転んでしまい、もちろん地面に落ちかけたところを、傍らの藍寸(ランスン)に支えられた。


  ……


 二十分後、馬車に座っている秉核(ヘイカク)は少し赤面していた。十分以上も考え直した末、銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)はとても恥ずかしいと思ったのだ。


 秉核(ヘイカク)は気づいた。

 この体では、どんなに振る舞おうとも、幼稚園児が大人ぶろうとするイメージを変えることはできない。

 今は感情をコントロールしなければ、頭が駄目になってしまう。


「無知な少年時代だった」と秉核(ヘイカク)は感慨深げに嘆いた。

「感情的で、視野が狭く、脳が小さな領域に集中していたため、私の思考パターンは幼稚な段階で待機しがちだった。だから、私はあまり話さず、あまり発言せず、多くを見るようにしよう」


  ……


 二十分後、一行が射撃場に着くと、軍服姿の将校たちが射撃の合間に談笑していた。

 真っ白な襟。黒く輝く軍靴。そして軍服の肩章。

 それらが、彼らが将校であることを示している。


 一行が彼らと顔を合わせたとき、藍寸(ランスン)は微笑んでいた。明らかに顔見知りで、挨拶を交わしたのだ。そして彼らは秉核(ヘイカク)の身分を知ると、傍らに立ち、十分な礼儀を示した。この礼儀正しさに、秉核(ヘイカク)はやや落ち着かなさを感じた。――秉核(ヘイカク)の目には、彼らが銃を手にしているように映った。

 銃を持つとは、道理を説かずに済むということである。


 後の秉核(ヘイカク)は知ることになるが、これらは全て一族の内部弟子たちだった。銃焰(ガンフレイム)家は数百年にわたって家を興し、九代にわたる継承のなかで枝分かれして、大量の一族の弟子を生み出してきた。

 爵位を継ぐ嫡流の系統のほかにも、多くの傍系が存在していた。


  ……


 こうした傍系の弟子たちが銃焰(ガンフレイム)家の中核勢力を構成していた。

 兵器工場や軍隊などの重要な職位には、彼らが就いている。

 一族はまた学校を開き、軍事教育と一族の栄誉を、幼い頃から一人一人に徹底させていた。


 爵位は一個人のものではなく、一族全体のものだ。

 一族全体と、この爵位の領地、そして工業生産の体系は、ひとつの共同体をなしていた。

 この関係は、一九七〇年代の国有企業の工場に似ている。

 何世代も同じ工場で働き、工場のなかで結束を固めていった。


 ここは宗族制から転換した工場制度である。銃焰(ガンフレイム)家だけでなく、大陸全体の軍需貴族も同様だ。


 貴族たちがこのような経営形態をとっているため、帝国皇帝といえども、貴族の爵位と権利を簡単には剥奪できない。銃焰(ガンフレイム)家を例に取れば、もし帝国皇帝が一己の好みで伯爵の爵位を剥奪すれば、兵器工場内の人事は主管者の解任によって麻痺してしまう。工場の労働者たちは、銃焰(ガンフレイム)家を自分たちの利益の代表と見なしているからだ。銃焰(ガンフレイム)家は帝国領内の軍事工業貴族に属する。


  ……


 秉核(ヘイカク)が興味津々で兵器工場にやって来て、あちこち触り回る。

 それを工場の管理者たちは、寛大に見逃してくれた。

 もちろん、言葉でからかわれるのは免れなかった。


 噂では秉核(ヘイカク)は少し鈍く、五歳を過ぎてようやく話し始めたという。


 しかし伯爵様は現在ご健康で、しかも伯爵の長男が秉核(ヘイカク)をかなり気にかけてくれている。この時の銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)は、周囲の目には「地主の家の間抜けな息子」と映っていた。

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