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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第二十九話

第29話 私の花嫁


『その女は――私の花嫁だ』


ノアの声が森に響いた。


アリアナの顔から血の気が引く。


「……ノア」


「来るな」


ノアはアリアナを見つめた。


その目には怒りがあった。


けれど、それ以上に――悲しみがあった。


「私は何度も言った」


「お前を死なせない」


「私のところへ戻れ」


アリアナは首を横に振る。


「嫌です」


「なぜだ」


「あなたのそばにいると、殿下が死ぬ」


ノアの視線がレオニードへ向く。


「この男か」


「……はい」


ノアはレオニードを見つめる。


「お前は、また彼女を苦しめる」


「……」


レオニードは反論しなかった。


確かにそうだった。


自分を守るために、アリアナは悪役になった。


自分を守るために、死んだ。


そして今も――


自分のせいで苦しんでいる。


「だから、今度は私が選ぶ」


ノアが手を伸ばす。


「アリアナ」


「私と来い」


アリアナは震えながら答えた。


「……行きません」


「なぜだ」


「私は――」


彼女はレオニードの手を握った。


「この人を愛しているから」


ノアの表情が凍った。


「……そうか」


森の空気が一変する。


黒い羽が舞い上がった。


「ならば――」


ノアの翼が大きく広がる。


「その男を殺す」


「やめて!」


アリアナが叫ぶ。


しかし。


ノアの手から黒い炎が放たれた。


レオニードが剣を構える。


だが――


炎はレオニードには届かなかった。


間に割り込んだのは、リリアだった。


「……聖女?」


黒い炎を受け止めたリリアが、その場に膝をつく。


「リリア!」


「大丈夫です……」


リリアは苦しそうに笑う。


「私は……アリアナ様と約束したんです」


「殿下を守るって」


アリアナの目から涙が落ちる。


「リリア様……」


その瞬間。


謎の女が笑った。


「やっぱり」


「何が?」


「二人とも、アリアナに騙されている」


レオニードが睨む。


「黙れ」


「本当よ」


女はアリアナを見る。


「あなたは、自分が何をしたのか知らないでしょう?」


アリアナの顔が強張る。


「……何を?」


「あなたは二人を守ろうとしている」


「でも、それ自体が間違いなの」


「どういう意味?」


女は黒い指輪を掲げた。


「あなたの魂は――」


一瞬、指輪が赤く光る。


「二つに分かれている」


「……!」


「一つは今のあなた」


「そして、もう一つは――」


女がレオニードを見る。


「この男の中にある」


レオニードは息を呑んだ。


「俺の中に?」


「そう」


「だから二人は何度生まれ変わっても惹かれ合う」


「だから、どちらか一人が死んでも終わらない」


アリアナは呆然としていた。


「……私と殿下が?」


「あなたたちは、一つの魂を二つに分けた存在」


「だから――」


女は笑う。


「あなたが死ねば、彼も死ぬ」


「彼が死ねば、あなたも死ぬ」


「そんな……」


アリアナの身体が震える。


レオニードは彼女の手を強く握った。


「なら、二人とも生きればいい」


「簡単な話だ」


女は首を横に振る。


「できない」


「なぜ」


「魂を二つに分けた者は――」


女が静かに告げる。


「最後には、必ず一つに戻らなければならない」


アリアナの顔が青ざめる。


「一つに……?」


「どちらかが消えるのよ」


その瞬間。


ノアが女を睨んだ。


『……嘘をつくな』


女の表情が変わる。


「……何?」


『二つに戻す方法はある』


レオニードが振り返る。


「知っているのか?」


ノアは答えた。


『ある』


アリアナが息を呑む。


「教えて……」


『だが、その方法を使えば――』


ノアはレオニードを見る。


『王太子の記憶がすべて消える』


「……俺の?」


『アリアナとの記憶も』


レオニードは黙った。


アリアナが首を横に振る。


「嫌……」


「それなら意味がない」


ノアは静かに言った。


『だから私は、別の方法を選んだ』


「別の方法?」


『お前を何度も蘇らせる』


『そして、彼がお前を忘れるまで待つ』


レオニードの目が見開かれる。


「……俺が忘れるまで?」


ノアは頷いた。


『そうすれば、魂は自然に分離する』


アリアナは泣きながら首を振った。


「そんなの……」


「私が殿下に忘れられるなんて……」


そのとき。


レオニードがアリアナの頬に触れた。


「なら、忘れない」


「殿下……」


「何度生まれ変わっても」


「何度お前を失っても」


「俺は、必ず思い出す」


アリアナが泣きながら笑う。


だが――


ノアは静かに目を伏せた。


『……それなら』


「?」


『明日の戴冠式で、お前は死ぬ』


レオニードの表情が凍る。


『そして――』


ノアはアリアナを見る。


『今度こそ、彼女も二度と戻れない』

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