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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第十三話

第13話 黒い指輪の代償


「父上!」


レオニードが国王の寝室へ駆け込む。


ベッドの上。


国王は青白い顔で横たわっていた。


「陛下は意識を?」


「まだ、お戻りになりません」


医師が首を横に振る。


「ですが、外傷はありません。毒の痕跡も――」


「なら、なぜ倒れた?」


誰も答えられない。


レオニードは父親の手を握った。


その手には――


黒い跡があった。


指輪を外したような、円形の痕。


「……指輪は?」


「こちらです」


騎士が布に包んだものを差し出す。


レオニードは触れなかった。


「アリアナは、この指輪を知っていた」


父親が言う。


「そして持ち出した」


「なら、なぜ父上の部屋にある?」


その問いに答えたのは――


リリアだった。


「……私、聞いたことがあります」


全員が振り返る。


「何を?」


「アリアナ様が言っていました」


リリアは震える声で続ける。


「『黒い指輪は、人を殺すものじゃない』と」


レオニードが目を見開く。


「では、何だ?」


「『願いを叶えるもの』だと」


「願い……?」


リリアは頷いた。


「でも、その代わりに――」


言葉を止める。


「何かを奪う、と」


その瞬間。


ベッドの上の国王が、わずかに指を動かした。


「父上!」


レオニードが身を乗り出す。


国王の唇が微かに動く。


「……アリア……」


「何です?」


「アリアナ……を……」


そこで意識を失った。


レオニードは呆然と立ち尽くす。


「今……アリアナと言った?」


医師も、父親も答えない。


ただ、父親が険しい顔で呟いた。


「アリアナが陛下に何かしたのではない」


「……どういうことです?」


「逆だ」


父親は黒い指輪を見る。


「陛下が、アリアナに何かをしようとした可能性がある」


「そんな……」


マリアが息を呑む。


だが、そのとき。


レオニードの懐から、紙が一枚落ちた。


アリアナの遺書だった。


拾い上げる。


今まで何度も読んだ手紙。


けれど――


紙の裏側に、薄い文字が浮かんでいる。


『もし王が倒れたなら』


レオニードの呼吸が止まる。


『絶対に黒い指輪を触らないで』


『それは、殿下を殺すためのものではありません』


「……なら、何のためだ」


続きがあった。


『王位を継ぐ者を、選ぶためのものです』


レオニードの顔が強張る。


『黒い指輪は、持ち主の願いを叶えます』


『ただし、その願いを叶えるために――』


そこから先だけ、血で汚れていた。


文字が読めない。


マリアが泣きそうな声で言う。


「アリアナ様……何を書こうとしていたんでしょう」


父親は黙っていた。


そして突然、顔を上げた。


「違う」


「え?」


「これは血ではない」


全員が紙を見る。


父親が指で触れる。


「インクだ」


「……インク?」


「誰かが、意図的に文章を隠した」


レオニードの目が鋭くなる。


「つまり……」


「アリアナは最初から、誰かに読まれることを想定していた」


そして。


父親は紙を火に近づけた。


すると、隠されていた文字が浮かび上がった。


『願いを叶える代わりに、最も愛する人の記憶を奪う』


レオニードは凍りついた。


「……記憶?」


『だから私は、殿下に嫌われなければならなかった』


『殿下に愛されている状態で指輪を使えば――』


最後の一文。


『殿下は、私を忘れてしまう』


レオニードの手から、紙が落ちた。


「……だから?」


声が震える。


「だからアリアナは……俺に嫌われようとしたのか?」


誰も答えない。


だが。


その瞬間――


国王が、再び目を開けた。


そしてレオニードを見て、


震える声で言った。


「……アリアナを……忘れろ」


「……父上?」


「そうしなければ……」


国王の顔に、初めて恐怖が浮かんだ。


「お前まで、あの女に殺される」


レオニードは息を呑んだ。


――その言葉だけが。


アリアナの遺書に書かれていた内容と、


完全に矛盾していた。

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