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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第十話

第10話 アリアナが最後に会った人


――三日前。


アリアナは、誰もいない廊下を歩いていた。


夜の王宮は静かだった。


昼間なら多くの人が行き交う場所も、今は誰もいない。


彼女の手には、小さな鍵が握られていた。


「……これで最後」


アリアナは呟く。


その顔には、いつもの穏やかな笑みがあった。


けれど。


指先だけが、震えていた。


向かった先は――王宮の地下。


王族ですらほとんど立ち入らない、古い封印庫だった。


鍵を差し込む。


――カチッ。


扉が開いた。


中には古い箱がいくつも並んでいる。


その中からアリアナは、一つの黒い箱を取り出した。


蓋には、王家の紋章。


そして、その下に刻まれた文字。


『王太子の愛する者』


アリアナは目を伏せた。


「……やっぱり」


箱を開ける。


中にあったのは――


一つの指輪。


黒い石が埋め込まれている。


アリアナは指輪を見つめた。


「これが……始まりだったのね」


その瞬間。


背後から声がした。


「何をしている」


アリアナの肩が小さく跳ねる。


振り返る。


そこに立っていたのは――


レオニードではなかった。


「……殿下のお父上」


国王だった。


アリアナはすぐに礼をする。


「こんな夜に、ここで何をしている」


「少し、調べたいことがありまして」


「何を?」


アリアナは答えなかった。


国王が一歩近づく。


「その指輪をどこで知った?」


「……古い記録で」


「嘘だな」


空気が変わった。


アリアナは黙る。


国王は静かに言った。


「アリアナ・フォン・ヴァルディア」


「はい」


「お前は、何を知っている?」


アリアナはしばらく国王を見つめていた。


そして――


笑った。


「何も」


「……何?」


「私は、何も知りません」


国王の目が細くなる。


「なら、なぜ泣いている」


アリアナは自分の頬に触れた。


いつの間にか涙が流れていた。


「……殿下には」


声が震える。


「幸せになってほしいからです」


国王は黙った。


アリアナは指輪を箱に戻す。


「この指輪は、私が持っていきます」


「許さん」


「それでも」


アリアナは初めて、国王を真っ直ぐ見た。


「私は殿下を守ります」


その言葉に、国王の表情がわずかに変わった。


「……お前は、あの子を愛しているのか」


長い沈黙。


そしてアリアナは――


「はい」


小さく答えた。


「誰よりも」


その夜。


アリアナは指輪を持って王宮を出た。


そして自分の部屋へ戻ると、机に向かった。


一枚の紙を取り出す。


『殿下へ』


そこまで書いて、筆を止める。


涙が一滴、紙に落ちた。


「……ごめんなさい」


アリアナは指輪を見つめる。


「これを私が持っていけば……」


「きっと、あなたは助かる」


だが。


彼女は知らなかった。


その夜。


王宮の別の場所でも――


一人の人物が、同じ黒い指輪について記録を読んでいたことを。


そしてその人物は、古い記録の最後にこう書き加えた。


『アリアナは指輪を持ち出した』


『予定通り』


『これで、王太子を救うための第一段階は完了した』


その下に――


一つの名前が記されていた。


――リリア。

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