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一 大山講
式年遷宮の余韻を祝うように梅雨は早く過ぎ、相模の国には灼熱の太陽が注ぐ。文政一三年、小田原藩伊勢原、糟屋宿には早くも訪れた講の客でむせ返るような熱気に包まれていた。
街道を埋めつくすのは講の”白”である。霊山・大山への清浄なる衣の流れ――割るように進み来る”緑”があった。
緑の衣に目深に被った笠、腰には二本差しの武士、坂下新之丞。五尺半を超え、白と比べ頭一つ大きい身体で、大山へ向かう流れに逆らい歩いていた。
文句を言われ、因縁を付けられても、譲ることなく真っ直ぐ進む。
笠を上げ、睨み一つで黙らせ、丸太が如き腕で掻き分けていく。
坂下新之丞の歩みは止まない。豪雨の中でも、伊勢参りの列も割って、相手が大名行列だろうと、この一月歩き続けてきた。
一六年前、あの日の父の道場が血に沈んで始まった因縁。その決着を付けるためにその先に何があろうと、何が阻もうと、血塗られる道だろうと歩みが止まることはない。




