第6話「書いた覚えがない」
「……なぁ」
---
「はい?」
---
「昨日の続き、ちょっといいか」
---
「もちろんです」
---
後輩が椅子を引き寄せる。
---
「例のやつですよね」
---
「ああ」
---
パソコンを開く。
---
昨日調べた投稿の一覧。
---
履歴からすぐに出てくる。
---
「……」
---
スクロールする。
---
同じような内容。
---
“思い出せない”
“フォローしてる”
“外せない”
---
「……」
---
その中で、
---
一つ、目に止まる。
---
「……これ」
---
「どれです?」
---
後輩が覗き込む。
---
とある投稿。
---
コメント欄。
---
「……」
---
そこに、
---
自分のアカウント名があった。
---
「……は?」
---
思わず声が漏れる。
---
「え?」
---
後輩も画面を見る。
---
「……あ、本当だ」
---
軽く言う。
---
「先輩、コメントしてますね」
---
「……してない」
---
即答する。
---
「いや、でも」
---
画面を指差す。
---
そこには、
---
> 分かります
> 何回見ても内容が頭に残らない
---
自分のアカウント。
---
投稿時間。
---
深夜。
---
「……」
---
「……覚えてないですか?」
---
「……ああ」
---
「……」
---
後輩が少しだけ真顔になる。
---
「……ログインしたまま寝落ちとか」
---
「いや……」
---
首を振る。
---
「……そんな感じじゃない」
---
「……」
---
もう一度、コメントを見る。
---
文章。
---
自分の書き方だ。
---
違和感がない。
---
自然すぎる。
---
「……」
---
「……なぁ」
---
「はい」
---
「これ、いつ見たんだ俺」
---
「……」
---
後輩が答えに詰まる。
---
「……分かんないです」
---
「……」
---
「……でも」
---
少し考えて、
---
「先輩、昨日も見てましたよね?」
---
「……ああ」
---
「そのあととかじゃないですか?」
---
「……」
---
ありえなくはない。
---
でも、
---
「……」
---
“その記憶がない”。
---
「……」
---
スマホを取り出す。
---
履歴を開く。
---
動画アプリ。
---
再生履歴。
---
「……」
---
ずらりと並ぶ。
---
同じアカウント。
---
同じようなサムネ。
---
同じ時間帯。
---
「……」
---
全部、見たことになっている。
---
「……なんだこれ」
---
「……先輩」
---
後輩の声が少し低い。
---
「……これ、ちょっとおかしくないですか」
---
「……ああ」
---
「見すぎじゃないですか?」
---
「……」
---
数。
---
異常だった。
---
「……こんなに見てない」
---
「ですよね」
---
「……」
---
スクロールする。
---
どこまでも続く履歴。
---
「……」
---
そのとき、
---
一つの動画が目に止まる。
---
再生時間。
---
「00:00」
---
「……?」
---
「どうしました?」
---
「……これ」
---
画面を見せる。
---
「再生されてるのに、0秒ってどういうことだ」
---
「……え」
---
後輩が眉をひそめる。
---
「バグですかね」
---
「……」
---
タップする。
---
再生。
---
「……」
---
画面を見る。
---
何かが映っている。
---
はずなのに、
---
「……」
---
何も説明できない。
---
「……」
---
そのとき、
---
ふと、
---
違和感。
---
「……なぁ」
---
「はい」
---
「これ」
---
「はい」
---
「……今、見てるよな」
---
「見てますね」
---
「……」
---
「……じゃあなんで」
---
言葉が途切れる。
---
「……」
---
“見ている感覚”だけがあって、
---
“見た記憶”が残らない。
---
「……」
---
ゆっくりと、動画を閉じる。
---
「……」
---
画面が切り替わる。
---
自分のアカウントページ。
---
「……」
---
投稿履歴。
---
「……?」
---
「どうしました?」
---
「……これ」
---
自分の投稿一覧。
---
そこに、
---
見覚えのない動画があった。
---
「……」
---
タイトルもない。
---
サムネも曖昧。
---
でも、
---
「……」
---
確実に、
---
“自分が投稿している”。
---
「……これ、いつ上げた」
---
「……」
---
後輩が言葉を失う。
---
「……分かんないです」
---
「……」
---
動画を開く。
---
再生。
---
「……」
---
数秒。
---
「……」
---
分からない。
---
何も。
---
でも、
---
「……」
---
最後だけは、
---
はっきりと分かった。
---
口が動く。
---
「――いらっしゃいませ」




