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好きと言わないための練習会 ――定例(昼)
※この作品は、
「好きです」と言わないための練習会の記録です。
会話と沈黙が中心になります。
「では、定例を始めます」
彼女は、そう言った。
いつもの「始めます」ではなく、
わざわざ「定例」と付け足した。
名簿を開く。
「本日、三名欠席です」
誰も顔を上げない。
欠席数が増えても、
数え方が変わらない。
「議題はありません」
彼女は続ける。
「確認のみ行います」
ホワイトボードには、
すでに文字が書かれていた。
――定例確認
「前回以降」
彼女は淡々と読む。
「想定外の事象は発生していません」
「発生してません」
誰かが復唱する。
「想定内の事象についても」
彼女は続ける。
「特筆事項はありません」
「特筆、しないんですね」
冗談めかした声。
「はい」
彼女は即答する。
「記録密度を上げない方針なので」
誰かが小さく笑う。
「質問はありますか」
一瞬の沈黙。
「……この会って」
誰かが言いかける。
「定例、でしたっけ」
「今は、そうです」
彼女は言った。
「今は」
その「今は」に、
誰も突っ込まない。
「では」
彼女は言う。
「本日は以上です」
終了は、予定通り。
立ち上がるとき、
誰かが呟いた。
「楽ですね、最近」
「そうですね」
彼女は頷く。
「負荷は低めです」
会議室を出るとき、
ホワイトボードの
「定例確認」という文字が、
消されないまま残っていた。




