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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
91/105

死んでやる!

●越前守、母親を諭す


 越前守は、母親と三の君と四の君がいっしょにいるところへ戻ってきて、大将の言葉を伝えます。


「この屋敷は、大将殿の北の方が母上にお譲りくださるそうです。ほかにも、美濃の荘園の地券を除いて、すべて三の君と四の君にお譲りくださるのですよ」


「ああ、よかった! この屋敷だけは手放したくなかったからね」

 鬼ババは喜色をあらわにしますが、一瞬のことで、すぐに不服そうに頬を膨らませます。屋敷は夫の大納言が自分に遺してくれたのではなく、大将の北の方から()()()()もの。そこが気に食わないのです。


「落窪の君がこのようにしてくれた、というわけだね。嬉しくて涙が出るよ」

 皮肉たっぷりに言います。


 越前守は苦々しい表情で、ぶちっぶちっと爪弾きをします。

「正気ですか、母上は。口をお慎みください。私たちの将来にも関係してくるのですから。大将殿の恨みを買って、どれほど恥をかかされ懲らしめられたか、お忘れですか。今、これほどのご厚意を示していただいているというのに、そんなふうにおっしゃるとは。ご恩を受けている今でさえその調子なら、昔は、大将殿の北の方にどんな仕打ちをなさったんでしょう。落窪とか何窪とか、聞くに堪えませんよ!」


「ご厚意? 私がどれほどの厚意を受けたというの? 亡き大納言殿はいろいろ尽くしてもらったけれど、大将殿の北の方にとっては実の父親ですもの、当然でしょうよ。落窪って……まあ、ちょっと口がすべっただけ。そんなに責めなくてもよかろうに」


「情けないお心ですね。ものの道理もおわかりにならないのですか。ご自身は恩恵を受けていない。母上はそうお思いかもしれません。でも、大夫が左衛門佐さえもんのすけになったのは、誰のおかげですか? この景純かげずみ(越前守自身のこと)は、大将殿の家司となって加階※も賜りました。誰のおかげですか? これからも、我が一族の男たちが人並みに出世するためには、大将殿のお力を頼みにするほかないのですよ」

「…………」


「そもそも、母上はこの屋敷を相続できませんでしたよね。大将殿の北の方がお譲りくださらなかったら、ホームレスになるところだったんですよ。ありがたいとお思いになるべきですよ」

「ふん……」


「いいですか、母上。私も越前の国を治めて、そこそこ財を築きました。ですが、私の財を母上にさしあげることは、できません」

「あら、なんでなのよ?」

「私には嫁が()()()()()大事!」

「ちっ!」


「子供なんて親への愛情は薄いものなのです。自分が生んだ子さえ、こんなふうに冷たい。親孝行なんてしません。ですからね、母上。情け深い大将殿の北の方のご厚意に、泣いて喜び、感謝すべきではないでしょうか」


 まあそういうものなんだろうね、と鬼ババ継母は納得したものの、返事はしません(げにと思ひて、言ふいらへせず)。何に納得したかといえば 、お腹を痛めて生んだ子さえ親には冷たいという部分に、なのでしょう(おそらく)。かわいくない子たちばっかりだよ、まったく!


※加階――従五位から正五位へ引き上げてもらったと思われます。



●左衛門佐、母親を諭す


「大将殿へのお返事は、どのようにいたしましょう?」

 越前守が聞きます。


「さあね。好きになさい。私が何か言うと、そんな言い方はないだのなんだのかんだの、文句ばかりつけるじゃないか。賢い越前守殿が、この母の思いを推し量って、なんとでも書きなされ」


「また、そんなことを……。私が何か言うのも、母上のためを思ってのことですよ。大将殿は『三の君と四の君も、そして母上も、どのようにもお世話します』と、おっしゃっておいでなのですよ。北の方のご意向を尊重されておいでなのですよ、きっと。同じ母上から生まれた大君おおいぎみや中の君だって、妹たちのことをこんなに思ってはいませんよ」


「ふ~ん。なら、あの子は私のことはどれほど思ってくれてるのかしらね。あの子は、自分が相続した荘園を三の君と四の君に譲ってくれるというんだろう? 私なんか、丹波の国の荘園をもらったけど、一年に一斗の米も穫れないだろうよ。越中の国の荘園もあるけど、あんなに遠方じゃ、どれほど収穫があるか、量りようもないじゃないか。弁の殿(中の君の夫、弁官)は、三百石も収穫のある荘園を相続したというのに。私ばっかり残り物みたいな所を押しつけられたのは、景純、おまえが選んで、そうしたんだね!」


 母親と兄とのやりとりを、ここまで黙って聞いていた三の君と四の君が口を開きます。

「母上……!」

「兄上がそんなことなさるはずありませんわ。すべて、父上がお決めになったことです。痩せた土地や遠国の荘を母上に遺されたのは、父上ですわ。夫婦といっても、こんなふうになさるのです。なのに、あちらの北の方さまは――」


「ああああああ~、やかましいっ! おまえたちはビンボー人なんだね。ビンボーだから、ちょっとばかり財産を譲ってもらったからって、大感激して!」


 そこへ、末っ子の左衛門佐がやってきます。

「私たちは確かに貧乏人ですけどね。だからといって、大将殿の北の方を賞賛しているわけじゃありません。あの方は本当に立派な方です。気高い心をお持ちです。ここで暮らしておいでのころ、母上にひどい言葉を投げつけられても、言い返したりなどなさいませんでした。『私は気にしておりません』と、おっしゃっただけのようでした」

 

「ひどい言葉? どんな言葉だったかしらね。誰もかれも私を悪者扱いして! 死んでやる! おまえたち、罰が当たるよ!」


 越前守と左衛門佐の兄弟は、切れた母親にドン引きです。

「恐ろしいことをおっしゃる」

「これ以上は何も申し上げません」

 冷たく言い放って、立ち上がります。


 母親は慌てて、

「ちょ、ちょっと! 大将殿へのお返事! お返事、さしあげておくれよ!」


 二人とも聞いちゃいません。行ってしまいます。



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