ツタンカーメンの弁当箱
●あこぎ、悔しさをぶちまける
姫君の大切な鏡箱が持ち去られてしまった!
あんまりじゃない!
継母が部屋を出ていったあと、あこぎは悔しさをぶちまけます。――道頼はまだ几帳の陰に隠れています。
「姫君がお持ちになっていた物は、何もかも取りあげられちゃいました。調度類もお道具類も」
「そうだったかしら」
「大君、中君、三の君の婿取りのとき、ちょっとこれと取り換えてとか、ちょっと貸してちょうだいとか言われて、屏風も几帳も持っていかれちゃったじゃないですか」
「そうだったかしら」
「姫君は寛大なお心でいらっしゃるのに、北の方さまはただ強欲なだけじゃありませんか」
そこで姫君は、くすっ、と笑います。
「私はかまわないの。どのお道具も、必要がなくなったら、返してくださるわ」
このやりとりを聞いていた道頼は、姫君はたしかに寛大な心の持ち主だ、と思うのでした。
道頼は几帳の陰から出てきて、姫君を抱き寄せます。
「北の方が若作りなのには、ちょっと驚いたな。四人の姫君たちは母親似なの?」
「どうでしょう。あまり似ていらっしゃらないように思います。どの姫君もお美しくて、しっかりしていらっしゃいます」
「あんなふうに、えげつないわけじゃないんだね?」
「まあ……そんなふうにご覧になりましたの。それはそうと、北の方さまは、少将の君さまがここに隠れていらっしゃったと知ったら、何とおっしゃるかしら」
道頼の腕に抱かれ、姫君は少し打ち解けたようすで話をしています。
かわいいな、と道頼は思います。雨のなか、ここへ来るのを取り止めにしていたら、後悔するところだった、と。
そこへ、継母が、女童に黒い箱を持たせてよこします。
「お鏡の箱だそうです。えっと……これは絵が剥げていますが漆塗りです、とにかく漆塗りです、とのことです」
見れば、とんでもなく古ぼけた箱なのでした。
これ、何やの?
どこから発掘されたん?
あこぎはうんざりします。
「まあ、なんて素敵なお品でしょう。ありがたくて涙が出そう」
あこぎは箱に鏡を入れてみますが、箱が大きすぎて、収まりがよくありません。
「まあ、北の方さまは、なんてご親切なんでしょう。――姫君、こんな箱は使わないほうがましです。うっちゃっておきましょう」
姫君は優等生モードに入ります。
「ドントセイザット(そんなことを言ってはなりません)」
あこぎをたしなめて、女童に微笑みかけます。
「北の方さまに伝えてください。鏡の箱、たしかに頂戴いたしました。お言葉のとおり、大変結構なお品です」
女童がいなくなってから、道頼は箱を手にとってながめます。
「これはツタンカーメンの弁当箱だ。この世に二つとない貴重な物だよ」
というわけで、少将道頼は、もう一晩を姫君とともに過ごします。そして、今度こそ自邸から迎えの牛車を呼んで、夜明け前に帯刀と帰っていったのでした。
●姫君、あこぎの気遣いに感謝する
少将道頼が帰ったあと、姫君はあこぎに話しかけます。
「昨夜は恥ずかしい思いをせずにすみました。いろいろなものは、どうして手に入ったのかしら? 几帳を用意してもらえたのは、本当に嬉しかったわ」
「叔母に頼んで借り受けたんです」
姫君の胸に迫るものがあります。
あこぎ……。
あなただってまだ幼いのに、思いもよらない活躍をしてくれたのね。なんて健気なの。
亡きママンが、あこぎを後見と名づけたけれど、正解だったんだわ。
あこぎは帯刀から聞いたことを話します。
「少将の君は、どしゃ降りのなか、とんだ災難に見舞われたんですよ」
糞まみれになられたんです、糞ですよ、糞!――と言いそうになって、おっとっと、
「ずぶ濡れで泥んこになっちゃって」
「まあ……!」
「そんな災難もものともせず、少将の君は通ってきてくださったんです」
なんて熱いハートの持ち主なのかしら、少将の君は! このお邸の人々に見下されている姫君を、どうかお守りください。
あこぎは祈るのでした。黒いシルクのビキニパンツを、ちら、と思い浮かべつつ。




