第19話 アルの想い⑤(アル視点)
ふたりはビックリして、思わず少年の顔を凝視した。
「ヴィアンカって、あれだろ。銀の髪のかわい子ちゃん。有名だもんね」
「有名?」
「そうだよ。数ヶ月前からこの辺りによく来るようになって、あんな綺麗な子、他じゃ見ないから男どもは色めきだっちゃってさ。みんな狙ってるよ」
「なんだって?」
アルベルトは顔を顰めた。
「あいつはホント自由だな」
ルドルフォも渋い顔をする。
「兄ちゃんたちも、彼女を狙ってるんなら早くした方がいいよ」
「俺たちはそんなんじゃないの」
ルドルフォが少年の額をデコピンした。
「俺はヴィアンカの兄貴で、こいつがヴィアンカの恋人」
「え!?」
少年はアルベルトをまじまじと見つめた。
「嘘だろ……」
「なんでだよ」
「だってヴィアンカ、言ってたぞ。私の恋人は遠くにいるって」
「……なに?」
「ヴィアンカ、うちの店にもちょくちょく顔を出してくれて、これ。この女神像見ながら、いいなぁ欲しいなぁって目を輝かせててさ。恋人に買ってもらえばいいじゃんって言ったら、私の恋人は遠いところにいてオイソレと会える人じゃないんだって。いつか迎えに来てくれるって約束したのになかなか来てくれない、もう忘れちゃったのかなって、すごく寂しそうに笑ってたんだぞ。なんで? こんな近くにいるじゃん。なんで迎えに行ってあげないの?」
「…………」
アルベルトは言葉を詰まらせた。
「ヴィアンカ可哀想。早くしないと誰かに取られちゃうよ。寂しい時が狙い目って言うしね」
「誰にそんなこと教えてもらったんだよ」
「母ちゃんがよく言ってる。寂しい時、父ちゃんに言い寄られたって」
「お前の両親、ホント面白いな」
「まあ、そんなにこいつを責め立ててやるな。こいつにはこいつなりの事情があるの」
ルドルフォが助け船を出してくる。情けない、とアルベルトは思った。たったひとり、唯一望んだ愛する者を悲しませている自分が、情けなくて、そして惨めだ。
店内を出ると、日差しが目に眩しかった。
「そろそろかな」
パチリと懐中時計を開き、ルドルフォが呟いた。
「アルベルト、お前は今から俺に感謝するだろう」
「なんだよ」
「いいからいいから」
アルベルトの肩に腕を回し、ついて来いと歩き出す。
「お前はいつも強引すぎるぞ」
「お、いたいた」
ルドルフォは一軒の青果店を指差した。
「今日は昼過ぎに、果物買いに行くって言ってたんだよな」
そう言って、ニッと悪戯っぽく笑う。
アルベルトは……唖然とした。
その青果店を食い入るように見つめた。
まさか……と、思考が混乱する。
そこには青果店で買い物をするヴィアンカの姿があった。
4年振りに目にするヴィアンカは、可憐で美しく成長し、だが笑顔はあの頃のままあどけない。そのあまりの可愛らしさに、アルベルトは顔が熱くなる。ずっとずっと想っていた。ずっと恋焦がれて、いっときも忘れたことなどない。想いが溢れて胸が張り裂けそうだ。
胸を押さえ、呆然と立ち尽くすアルベルトに、ルドルフォは満足気に頷いた。
「ちょっと待ってろ。連れてくる」
「……は? お、おい! やめろ!」
アルベルトの制止を振り切って、ルドルフォは走り出した。
ヴィアンカとの再会まであと少し。
そして、あの男は見ていたのだ。ふたりの様子を。
公園で話し込むふたりを、遠くから見守るルドルフォ。お膳立てしたのは自分だが、少し不安を感じ、コソコソと密かに覗いていた。
「へえ〜ホントに恋人同士なんだ〜」
いつの間にか、ガラス店の少年が隣にいて一緒に覗いている。
「坊主、静かにしろ」
「はぁ〜い」
少年はニヤニヤと笑っている。
「くそっ、距離が近いって」
親指を齧り、イライラとふたりを凝視するルドルフォを、少年は可笑しそうに見つめている。
「あっ、ヴィアンカ泣いちゃった。あっ、ヘタレの兄ちゃんが抱きしめた。ヒューお熱いね〜! うわっ! チューしてる! すっげぇ!!」
いちいち実況する少年と、顔を真っ赤にして憤慨するルドルフォ。
「あ、あいつ……! 許さん! 殺す!!」
「やめなって〜」
「離せ、離せよ、坊主! あいつだけは絶対に許さん!」
そこには、必死にしがみ付いて止める少年と、私の天使が〜と泣き叫ぶルドルフォの姿があったとかなかったとか。
次回からヴィアンカ視点に戻ります。




