表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/76

第18話 アルの想い④(アル視点)

「おい、今日は三番街に行くぞ」


 執務室のドアを開けるなり、ルドルフォが唐突にそう言ってきた。


「そんな暇はない」


 大量の書類を前に、アルベルトは溜息を吐いた。こいつはなんでもいきなりすぎる。


「少しは息抜きしろって。それに市井の様子を把握しておくのも王太子様の重要な役割なんじゃないの」

「後でにしろよ。明日からのバルトル地区視察の書類を纏めなくちゃならない。今日中に終わらせておく仕事も山積みだぞ」

「それこそ後で手伝うよ。だから、行こう。今すぐ支度しろ」

「随分強引だな。何かあるのか」


 アルベルトが怪訝に思うが、ルドルフォはニタリと笑うばかりで理由を言わない。

 アルベルトは2度目の溜息を吐いた。






「やっぱり王都の三番街はパステルとは違った賑わいがあるよな」


 ルドルフォが弾んだ声を上げた。


「そうだな」


 アルベルトもそれに賛同する。パステルも大きな街だが、王都とは比べるまでもない。

 ユーイン王国の城下町は今のところ平和で、比較的治安もいい。のんびりと散策するにはもってこいだ。

 遠くない将来、自分が治めることになるであろう国が平穏で安泰な様子を眺めるのはすこぶる気分が良い。勿論、課題も多いが。自分が守るべき未来の重さに気が引き締まる思いだ。


 お忍びとはいえ、国の王太子がこんなところに出没するなんて誰も思わないのだろう。ところどころの店で気軽に声をかけられ、その度に出店を覗き、気が向いたら(ルドルフォの金で)買い物をして、なんだかんだで楽しんでいる。パステルでもこんなふうにヴィアンカとよく買い物をしたな、と懐かしく思う。


「おう、兄ちゃんたち。うちの店、見てってよ」


 クイクイと袖を引かれ、振り返ると10歳くらいの少年がニカッと笑顔を向けていた。


「ひゃー! 兄ちゃんたち、すんげぇイケメン。ならうちの店はもってこいだ。彼女に贈るプレゼントが揃ってるよ」


 アルベルトとルドルフォは顔を見合わせた。


「ダメだよ。こいつは好きな女に求婚もできないヘタレだから」

 ルドルフォがそう言って、アルベルトを指差す。


「あぁ?」

 ジロリとルドルフォを睨みつける。真実なのが悔しい。


「え〜ウッソだろ〜! もったいね〜! こんだけイケメンならヨリドリミドリのジンセーオーカのシュチニクリンだろ」

「坊主、随分と難しい言葉知ってんな」


 アルベルトが呆れ返った声で言うと、少年はニッと笑った。


「父ちゃんがよく言ってる。自分がもっと男前だったらなぁって」

「まぁ、たしかにこいつなら女なんて選り取り見取りだし、人生謳歌して酒池肉林もやりたい放題だろうな」


 クククッとルドルフォも笑う。はあ? 人を何だと思ってるんだ、こいつは。ムッときて腕でルドルフォの首を締め上げた。




 少年に連れてこられた場所は裏通りに入ったところにあるこじんまりとした店だった。


「すっげ……」

 ルドルフォが思わず感嘆の声を上げる。


 そこはガラス商品を扱う店のようで、店内に差し込む光に反射してキラキラ輝く、色とりどりのガラス工芸品がところ狭しと並んでいた。


 グラスや器のような日用品から、ランプ、アクセサリー、ガラスで出来た置物まである。

 アルベルトは精巧な造りの女神像に目を奪われていた。両手のひらを広げたくらいの大きさだが、その繊細な造りに、職人の腕前が相当高いことがわかる。


「すげーだろ。うちの父ちゃんは国一番のガラス職人なんだぜ」

「みたいだな」


 アルベルトは素直に感心していた。こういう店が下町にひっそり存在するんだから、侮れない。


「なー。何か買ってってよ。オレのこづかいに貢献して?」


 お願いっと両手を合わせてくる。

 アルベルトは少年の頭をぐしゃぐしゃと撫で回し、何の気なしに先程の女神像を手に取る。


「お! お目が高い! それは父ちゃんの最高傑作だぜ」

 そう言って、万歳と両手を上げた。


「持ち合わせがないな。ルドルフォ、頼んだ」

「はぁ〜? 後でちゃんと返せよ」


 渋々といった表情で財布を取り出すルドルフォ。他の商品とは一線を画した値段で、ガラス製品は元値が高額なこともあり、これ1体で庶民の平均年収ほどするのだが、あまり気にしていない。アルベルトはもともと金を持ち歩かず、こういうところが、貴族然としていることにもふたりは気がついていない。


「兄ちゃんたち、すげぇ金持ちなのな……」




「どうすんだよ、これ。ヴィアンカにでもプレゼントするのか」

「悪いか」

「こういうの好きそうだし、いいんじゃない」


 のんびり会話をしてると、少年が割って入ってきた。


「兄ちゃんたち、ヴィアンカ知ってんの?」

「は?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ