表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/119

頑固者

「ところでお主は……いつまでここにアランを置いておくつもりじゃ?」


 フーロイドは、眼前ではしゃぎながら遊ぶアランとエイレンを見据えつつ、ファンジオに問うた。

 今のレベルとしてみても、エイレンは魔法でアランに勝つことは出来はしない。

 そこで、双方に対して秘密裏に使用したのが魔法力制御システムでもある指輪だった。

 フーロイドはアランの左手薬指に指輪をはめる。

 そうすることによって、体内から外界へ魔法力が伝達するのを防ぎ、指輪に向けて魔法力の七割程度が吸収される。

 残り三割を駆使してエイレンとのごっこ遊び(・・・・・)に興じれば、アランとエイレンの魔法力は釣り合いを取れている状態だった。


 フーロイドの素朴な疑問に、アラン達には見えないようにして今日の狩りの成果でもある血染狼ブラッドウルフの解体を進めていくファンジオ。

 右手にナイフを持ち、器用に皮をはいでいくファンジオの様子を遠目で見つつ、フーロイドは杖を持って立ち上がった。


「いつまで……ってのは、どういうことだい?」


「決まっておろう。主はいつまでこんなところで油を売っておる」


「…………」


「コシャ村の連中はいつこの家を狙いに来るか分からぬぞ。あの蛮族集団じゃとな。気付かぬうちにアランが攫われでもしたらどうするつもりか。これから才能が溢れ出す小倅を無暗に殺されてもいいのかの?」

 

 その言葉に、ファンジオは何も言い返さない。

 苛立ちを抑えつつもフーロイドは長い白鬚に手をやる。


 家の奥の方では、昼食を作るマイン。そしてそれに師事するルクシアの楽しげな声が聞こえてくる。

 実際、ルクシアの料理は上手いがそれほど抜群というわけでもない。

 何せ、普段フーロイドに振る舞っている食事も美味くもなく、不味くもなくといった具合だ。


 ファンジオとしても、このままだと生活が成り立たなくなるというのは気付いていることだった。

 だが、彼の本文は猟師である。いきなり別の村に紛れ込んだところで馴染めないことに変わりはないし、余所者に対して「村」という制度はどうしても排他的になる。

 そのうえ、特異者と呼ばれるアランがいる。良くて現在のような村八分の状態、最悪の場合今すぐにでも命を取られるということも考えられる。

 そうなったらば、今現在直接的な危険のないコシャ村近郊に住み続けるという以外に彼らには選択肢がなかった。


「王都にでも住めってのか? 定住権を得ていない俺たちに」


「ワシらが匿うと言っておろうに」


「それでも人権はないことに変わりはない。それこそ今より更にキツい迫害が待っているに決まってる。俺やマインはまだ許せる。だが……アランにそんな思いは微塵もさせたくはねぇ」


「……お主も頑固よのぅ。それならそれであの小倅だけは守ることじゃ。才能の芽をつぶすことだけは、このフーロイドが許さぬぞ」


 穏やかな笑みに裏打ちされたのは、冷徹な感情だった。

 王都への定住権――。文字通り、王都に住むための権限である。

 この国における王都とは他国よりも様子が少し違う。オートルという一個人が栄えさせたその場所は貴族が蔓延っている。

 王都に住む、ということはそれだけで「優雅」という称号を得ることにも他ならない。

 ただし、フーロイドなどは王都の中でも一番土地価値の低い路地裏でひっそりと暮らしているわけでもあるのだが、そこに住むということ自体は「優雅」と呼べるものでもある。


「俺たちには王都に住むだけの金がねぇ。税金も納められるとは限らねえ。生粋の村産まれ、村育ちが王都での生活になじめるわけがねえ。毎年定住権の無い奴等が中央管理局の人間に摘発されてんのを俺は見てんだよ。それに――そいつらのそのあとは誰も見たことがねぇ。となると、いくらフー爺の提案でも受けかねるさ……」


「――王都での危険よりも、コシャ村の危険の方が安全と言いたいのかの?」


「どっちも危険なら、より危険の少ない方を選ぶだけだ。猟師っつー職業柄の危機管理はそれなりだとは確信しているんだがな」


 飄々と答えを紡ぎ出すファンジオに対し、フーロイドは戒めるように「お主はかの村のようなつまらぬ思考はするでないぞ」と釘を刺す。


「本当にフー爺はコシャ村が嫌いなんだな」


 ファンジオの苦笑に、フーロイドは「ふん」と鼻を鳴らした。


「アラン、エイレン。修行は終わりじゃ。次の試練を二人には与えよう。アラン、お主に関しては魔法力の消費が過ぎるでなぁ。少し休んでおくといい。エイレン、主はともかく体内の魔法術に長けておるのじゃから、そこを上手く活用してじゃの――」


 そう、幼い二人に歩きつつ指導を加えるフーロイドはさながら二人の先生のような存在になっていた。


「つまらねぇ思考……か」


 ファンジオは小さく嘆息して、再び血染狼ブラッドウルフの解剖体を一瞥したのだった。


○○○


「村長。許可をください」


 数人の男が村の長であり子供たちのガキ大将、ドルジの祖父でもあるオルジの元で最敬礼の意を示すべく直談判を行っている。


「……むぅ……」


 それに頭を悩ませる村長、オルジ。

 そんな中で「この狩猟には十分な価値があるかと」と進言したのはエイレン・ニーナの父親、エラム。

 その背後には村中の屈強な男たちが村長の下す決定、そしてエラムの直談判の行方を見守る。


「アーリの森は現在、『悪魔の家系』であるファンジオ・ノエルが牛耳っています。ですがあそこにあるのは潤沢な資源。みすみす奴に渡す手立てはありません」


 エラムの言葉に同意する男たちは、コシャ村の猟師。


「じゃが……そうとはいえ……彼らを追い出したのは、ほかでもない。ワシらじゃ……。その追い出したファンジオが自らの力で開拓した森に、ワシらが入るというのは……あまりにもおこがましくは思わんかの?」


 制止するような村長――オルジの言葉に、エラムは黒々とした顎鬚に手をやりながら「そうは思いません。それは我ら、皆の考えのもとにございます」と口を開いた。


「奴らは所詮、『悪魔の家系』。この世の理としては、悪魔は滅ぶべき……。むしろ悪魔が荒らしていた森を浄化するのも我ら猟師としての使命――と、そう考えることが出来ます」


「……ワシは猟師ではないが……猟師とは『命』を扱う職業である。そこは理解できるが……あまり賛同はしかねるがの……。アーリの森は特定危険地帯にも登録されておろう?」


 そんなオルジの心配する様子を慮ってか、「それなら心配には及びません」とエラムは声をあげ、後ろに控える猟師たちに目をやった。


「ここにいるのは皆、歴戦の猛者ばかり。アーリの森とて潜り抜けることが出来る者たちが集結しております。皆でアーリの森に潜むと言われる『森の主』とやらを狩るには十分かと――。なぁ! 皆!」


『オオオオオオッ!!』


 エラムの言葉に、後ろの男たちが雄たけびを上げる。

 それを聞いたオルジは目をすぼませて「……皆がそういうのであれば、許可をする以外にはなかろうて」と、村長椅子から立ち上がり、自身の元に集まった猟師に告げる。


「ならばワシは皆の者を信じ、待つしか出来ぬ。皆の者。これだけは約束するがよい――生きて帰る……と。それならば、ワシは主等の行動すべてを、神の名のもとに祝福しよう」


 多数決に弱いオルジ。それを見計らっていたエラムを始めとする村の屈強な猟師たちはにやりと笑みを浮かべる。


「ついでに奴等(悪魔の一家)を抹殺する準備をしておけ。あの森は我等が頂く。ファンジオただ一人に利権を譲るわけにはいかんからなぁ」


 エラムは耳打ちをするように男の一人に呟いた。


「決行は三日後だ。手抜かるな」


 エラムの呟きに、村の男達は首肯した――。


星球大賞のタグをつけました。

あと、自分で書いてて胸糞悪くなりました。

明日は休載するかもです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ