ヤム
シンパン→万界王編・黎明期あたりの。
万界構想根幹にいる種族の一つ、ですね。
本にするか迷ったのです。短編短編で、オムニバスなんですが、戦争と制圧と帰属を9回繰り返すのは、読むと苦痛かなーと。。
ヤムは無血服従。
でも、ここから先の種族はほぼ戦争になりますね。
1332の麾下は、戦うだけで執務系はほとんどやりません。
この麾下たち以外は「奴隷民」と一律で呼ばれます。トークン族さえそれです。
美形とか出ない地味な作品ですよ(笑)
「ナオナオナーオではありませんね?」
「ヤムでもありませんね?」
髭がぴんっと伸びて、しかし警戒するとは違った好奇心が見え隠れする。
全体が茶色で、毛足が短い。耳は丸みを帯びていて、頻繁に前に後ろに倒れる。
ナオナオナーオとは大型の肉食獣で、この鼠たちを貪り食らう。ナオン、ナォーンと鳴くのでそう名付けられた。文字で示せば可愛い鳴き声のようだが、実際聞けば地を揺るがすようなだみ声である。豹の俊敏さと虎の攻撃力と巨体であるから、脅威である。
対してヤムとはこの鼠たちを指す。『我々』という意味だ。
「外から来ました。あなた方を支配させてください」
ヤムの6倍近く大きいものが言った。
目がちかちかするほど、白い服を着ている。
光る青い玉の入った銀色の棒を持っていた。
一匹を抱き上げて膝に乗せ、顎を撫でてきた。優しい仕草だった。
撫でられたヤムはうっとりとした。
「はぅう。ヤムのことを支配ですか。かまいませんが、条件があります」
「なんでしょう?」
「ヤムの神様になってください。そうしたら、ヤムは仕えます」
「わかりました。神様になりますよ」
それは気安く、応じてきた。
「では神様。お仕えします」
大きな存在はとまどった。
あまりにあっさりとことが決まったからだ。
こんな小さな生き物に狼藉などしたくはなかったから、都合はいいのだが。
「良いんですかね、それで」
「いいんです、それで」
くりくりとした黒目を神様に向けて、ヤムは言う。
ヤム。
総数十万匹程度の、ちっぽけな鼠の姿をした、この世界の支配種。とはいえ、ナオナオナーオに食われる存在なのだが。
戦争にもならずに、この世界はほぼ、その神の手に入った。
「あとはあの、大型獰猛肉食獣をなんとかするだけですね」
「なんとかされては困ります」
「ナオナオナーオはヤムを食べるものです。痛いですが、しかたありません」
大きな存在は目を大きく見開いて言われた言葉を反芻した。
「食べられてしまうんですよ?」
「はい、そうです」
「ナオナオナーオはヤムを食べますから」
「ヤムは命の木の実を食べます。命の木の実が普通に落ちると次の年にナオナオナーオとして生まれますよ、神様。ナオナオナーオはヤムを食べると、次の年に命の木の苗になって、三年すると実をつけるのです。その後三十年、いっぱい木の実をつけて、そのあと十五年、いっぱいのときの半分ぐらい実をつけて、そのあと五年、ほんの少し実をつけたあと立ち枯れていきます。立ち枯れると、ヤムの巣材になるのです。中がほわほわしてるのです。その巣材の中かナオナオナーオの毛皮でしか、ヤムは気持ちよく休めません」
「命の木の実を食べないとヤムは次の年を生きられません」
「だから、なんとかするのはなんとかしない方針でお願いしたいのです。ナオナオナーオが増えすぎたら、それは困りますけれども」
「ナオナオナーオの寿命は二年ぐらいしかありません」
「三年すると、ヤムを食べなかったナオナオナーオはヤムを産んで消えていきます」
「壮絶な循環ですね。あなた方が食べられるのは忍びないのですが」
「神様。こればかりは。変えれば、ヤムが滅んでしまいます?」
「神様は命の木の実にかわるものを何かご用意できますか?」
しばらく悩んだ後。
「無理ですね」
頼りない神様だと思われても仕方がない答えを出した。
「ナオナオを年に二・三匹狩るのは問題ありませんか?」
「ありません。ナオナオナーオはいっぱいいます」
「二千も三千も狩るとなったら、いろいろ問題ありますけれど」
驚いたことに、ヤムは数が数えられた。歳月も数えられた。
何年か後、安西早百合はこのときのことを思い出して、苦笑する。
「ヤム族が一番、私にきつい条件をつけましたよね」
己の民になったものが肉食獣に食われるのを黙ってみているほかない。
命の木の実に変わる、命をはぐくむ糧は見つからない。
賢い鼠たちは運命を甘受している。
ヤム達は命の木の実を自分と同じ高さの瓶5つ分、安西早百合に納めることになった。
珍しく早百合は彼らに別の名前を与えることはなく、ただヤム族、ヤムと呼ぶことにした。
ヤムの世界は単一世界で、端っこは崖である。
ヤム達は世界の縁の厳しい岩山のあたりに住み、下ったところに命の木が生え、ナオナオナーオが暮らしている。
ナオナオナーオは敏捷だが岩山には上れない。ヤムの体重なら大丈夫な岩でも、ナオナオナーオの体重では転がり落ちてしまうからだ。中心にも岩山があり、早百合は地形を見るにつけ、似ていると思った。
しゃぶしゃぶ用の鍋だ。真ん中が筒のように空いているあれである。
巨大な中央の岩山は火山のように大きなお釜があり、そこは水をたっぷりと湛えた湖になっていた。
中央の岩山に住むヤムと、縁の岩山に住むヤム。生息数は縁山の方が多い。
縁山のヤム達に早百合は水瓶を与えた。
中央山のヤムには、土といくつかの果実の苗を与えた。
それぞれの集落のヤムたちに、実を持ち運びやすいようにと、バンダナを与えた。
ヤムたちはそれを首に巻きつけて、木の実を手に入れたらそれを風呂敷のようにして背にくくりつけ、今までよりたくさん、とってこられるようになった。
その一部が神様と呼ぶようになった安西早百合への税金として納められている。
「主よ」
女性の姿をした参謀、毒の蜜がヤムの首の後ろをつかんで持ち上げて、言った。
「これは相当な腹黒ですが」
「乱暴です。ヤムは猫ではありません。この持ち方は乱暴ですよ、蜜様」
ヤムは短い手足をぱたぱたさせながら抗議した。
「もふもふに、勝る正義はありません」
早百合は言った。
「は?」
シルバニアファミリーという玩具をこよなく愛する彼女が、こんな生き物を愛でないわけがない。
いつしか、早百合の眼ざめのお茶を用意し、種族全体がつながっている彼らは戦時はそのテレパシー能力を生かして、最重要の通信を担当するようになっていく。
あっという間に、執務官主力のトークン族並みに、全世界へと散っていき、もっとも外を理解している種族の一つとなる。
そして腹黒い、の意味はすなわち。
「ヤムは可愛いらしいのですよ」
「みなさんそう言ってくださいます」
「ええ、ヤムは可愛いのです。だから、かわいらしくありましょう」
「それが世渡りというものです」
自分たちが万界軍のマスコットレベルでかわいらしいことを自覚していたことと、早百合をそのかわいらしさで実にうまく利用していたことだった。




