51.お友達?
「……なぜ、私なのかお聞きしても?」
セレナが訝しげな目をして尋ねる。リシェルがはらはらしながら見守る。
「『侯爵家の宝石』ーーその名くらいは知っていた。そう呼ばれ皆に愛されていると。
……ただ、正直に言うと、私はどうも貴族のご令嬢が苦手でな…」
…ああ。と呟く夫人。やめなさい、と侯爵が嗜めるが理由を知っている者達は苦笑している。
アレクシスはなんと言っても王太子。言い寄って来る女性も沢山いれば繋がりを持ちたい貴族から縁談が大量に持ち込まれたりしていたが、当の本人はいつも迷惑そうにして寄せ付けず、未だに婚約者も恋人もいない。それらしき噂も一切流れない。
「王太子である事、それだけが私の価値で、肩書きしかみていない。誰もが同じだと思っていた。……でも、君だけは違った」
セレナがわずかに目を瞠る。
「…さっき、君の目には姉君しかうつっていなかった」
「ーーえ?」
なんのことだろう?セレナが首を傾げる。
「姉君を助けに行った時だ。普通は…自分で言うのもあれだが、仮にも王族が傍にいたのに、存在すら目に入っていない。ひたすら姉君を心配していた」
そこでセレナははっと息を呑む。
「…ご挨拶もせずに、た、大変申し訳ございません…」
思わず青ざめる。確かにそうだ…殿下にご挨拶もしていなかった。失礼に今更気づく。
「いや、違うんだ。擦り寄って来る人間しかいない中、それが私にはあまりにも新鮮で。本気で、心の底から心配しているのだと分かった。しかも、聞けば姉君を救いたくて自分からあんな危険な場所に行ったと。弱い自分のせいで姉君と会えないからと、騎士団の訓練に混じっていたとも聞いた」
「セレナ…、そうなのですか?」
「そ、それは…」
リシェルが驚き尋ねると、恥ずかしそうにごにょごにょ言っている。
「こんなに優しくて、強くあろうとする女性は見た事がない。まさに国母に相応しい女性だと、そう思った」
セレナの顔が僅かに赤く染まる。
「…あ、ありがとうございます…」
「しかも。君はさっき、私は悪くないと言ってくれた。そこまで大切に思っている姉君を攫おうとした王家の関係者に、…恨まれても仕方ないのに、王家ではなく私を一人の人間として、庇ってくれた。……あの言葉に救われた」
セレナは、驚き顔を上げる。
…このお方は。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
まっすぐに目を見て伝える。
「…殿下こそ、たった一人の人間のために、動いてくれました。お姉様を救ってくださり、本当にありがとうございます…そして、そんなふうに言っていただけて嬉しいです」
アレクシスが期待を込めた顔でセレナを見る。
「では…エスコートさせていただけるだろうか」
「………でも、今まで殿下の事はあまり良く知りませんでした。急に言われてもどうしたら良いか分かりません…」
「…そうか、そうだよな」
「…なので!」
アレクシスが俯きかけた顔を上げると。
「お、お友達から始めませんか…!?」
ーー王太子相手にお友達とは。教育間違えたかしら…
侯爵夫人が頭に手をやりため息をつく。侯爵は実はわずかに安心していた。
リシェルだけでも本当は嫌なのに、セレナまで取られたらたまらん。2人も同時に嫁に出すなど、まだ早い。
王太子相手にそんな事、口には出せないが。
「……はははっ!君は面白いな」
アレクシスが一瞬呆気に取られた後大笑いし、ジークフリートが驚く。
殿下、こんな風に笑えるようになったのか…
アレクシスが事件後こんなに笑っているのを初めて見た。今まではそれなりに王太子として振る舞っていても、どこか陰鬱とした空気だった。…余程後悔してきたのだろう。
あまりの嬉しさについうっかり目が潤んでしまった。ジークフリートにとっては、アレクシスですら幼い頃から知っている、我が子同然に可愛い存在なのだ。
ジークフリートが侯爵の肩を叩きにこにこして首を振る。
ため息をつく侯爵。
リシェルは、楽しそうに笑う二人を見て微笑んだ。




