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決戦前夜~オペレーション・ゼロ~(後編4)

「ここで、瀬神高校恒例の、『エンジン』、組もうぜ?」


 何言い出すかと思ったら・・・、ニッキのやつ・・・!?

 あの恥ずかしい儀式だけは、どうにか勘弁してほしい・・・


「あの、ニッキ・・・、な?」

 僕は声をかけた。

「ん? なんだ?」

「もう、時間もないんだし、先、進まないか?」


 ニッキは一瞬、は?という顔をしたが、すぐに気を取り直して言った。

「何いってんだ! 今こそ『エンジン』だろが? 我が高、百年の伝統!」


 聞く耳もたない、と言った感じ・・・こりゃダメだ。


「いいから集まれって。全員集合~!!」

 ニッキの声の勢いに圧されたのか、二十人の決死隊は、互いに顔を見合わせて苦笑いしつつも、しぶしぶと立ち上がって彼を輪になって囲んだ。


 全員がそろったのを見届けるとニッキは満足そうに微笑んだ。

 そして、次の瞬間、彼は左足を前に出して中腰になり、まるでヒーローの変身場面のように両手を斜めにして身構えると、周囲が驚くほどの大声を挙げた。 


「瀬神高校決死隊、作戦名オペレーションゼロの成功を祈願してぇ~、 武神に伝統のひと舞を奉納したてまつりまぁぁぁぁすっっ!!」 

 

 でぇ~っ?!


 これは高校の体育祭で応援団が百年受け継いできた伝統の踊りだ!

 けど、あまりにも、ハズいっ・・・


 突っ立ったまま、僕がモジモジしていると、ニッキが睨みつけてきた。 


「なーにやってんだ!! 全員がやらないとだめじゃんか?! ほら、タケシだけじゃなくて、シューマも加われ!!」 

 シューマも自らを指差し、俺?ととぼけているが、しょうがねーという感じで最後は頭を掻きながら前に進み出ると、あとの剣道部の仲間たちもしぶしぶそれに従った。


 やるしか、ない・・・


 観念して、僕らをはじめ、全員が中腰になると・・・。


 ニッキは、低く構えたお尻をさらに地面スレスレにつけるかのように深く下半身を沈め、息を大きく吸い込み・・・。


 次の瞬間には、忘れもしない、あの掛け声が!!


 ニッキの、眉間にしわを寄せながらも、口を尖らせ、得意げな顔と言ったら!?


「えー~~ぃっ! エイホッホ! えー~~いっ!! エイホッホ! 」 


 僕らは、この掛け声を挙げている間中、左腕の力こぶを誇示するようなかけっこポーズを作り、上下にわずかに屈伸する・・・


 左が終わると今度は腕を入れ替え、右で・・・

 これを5回・・・

 う~~ん・・・長過ぎる・・・


 これって、うちの体育祭では、付近の女子校の生徒たちが見に来てる中での公開処刑、みたいなシーンなのだ・・・。 


 とうとう、5回目のかけっこポーズを、ニッキに合わせて全員が決めると、 彼は満足そうに雄叫びを挙げた。


「ぃよぉぉぉぉぉおおしっ!! じゃあ、全員半歩前へ! 円になって肩をくめぃぃぃっ!」 


 最後は気合い入れだ!


「瀬神高校、ファィッ!! おぉぉぉっ、瀬神高校、ファイッ、おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」  


 互いに円陣を組み、腕を組み合いながら掛け声を挙げると、教室の中で僕らの声が高らかに鳴り響く!


 下を向いた皆の頬は、全員、興奮からか緊張からなのか、赤くなっているのが分かる。 

 帰宅部だった僕にとっては、なんだか新鮮だ。



 円陣を解いたのちも、しばらくは全員が興奮冷めやらぬ、という感じだったが、やがて我に返ったようにそれぞれが与えられた役割に応じて、教室内で小グループに分かれて戦闘のシミュレーションを重ねた。

 僕も、黒板にかかれた各階の間取りを見ながら、ワタルを守るマツオ、そしてミコの常世観の力と僕の剣さばきをどう連携させていくかを綿密に打ち合わせていたが、そこに、セイジが大きな風呂敷袋を背中に抱えて、僕らに近づいてきた。


「マツオ。ちょっと、いいか?」

「え? 僕でいいの?」

 突然の声かけに、マツオはびっくりして目をパチクリさせている。


 セイジは顔をしかめた。

「僕で良いの、は余計だろ? お前は、このチームの頭脳であるワタルを守る、という大事な使命がある。そして、それはある意味、自己犠牲を前提にした、お前しか出来ない仕事だ。実はな、そんなお前に、手渡したいものがある」

 マツオは理解できずに戸惑っている。


 セイジは、背中におぶってきた重い風呂敷包みを大切そうに下に降ろし、結び目を解くと、中から、剣道の「胴」を一回り大きくしたような、たくさんの小さな板のようなものがビッシリと規則的に貼り付けられた古びた鎧が出てきた。

 新しいものではない。板や、それをつなぐ紐は、茶色く変色し、ささくれている。ただ、日本の武士が身につけていたよくある鎧とも明らかに違っている。


 セイジは鎧を見ながら話し始めた。

「見て分かるように、これは昔の鎧だ。それも、日本のものではない。これは、我がモノノベ一族が、鎌倉時代に蒙古が九州に攻め込んできた際に敵から捕獲した代物だ。 当時、武士たちは、この鎧を見て驚愕した。昔は、鎧といえば、鉄や金属というのが常識だ。が、蒙古兵は、乗馬や戦闘のときの優位性を保つため、いかに機動性を損なわないかを徹底的に追求した。そして、最終的に、彼らは、皮を煮て硬化させ、さらに漆や樹脂でコーティングし、さらにその皮の小片をつなぐというラメラ構造によって、衝撃の分散や可動域を広げることに成功したのだ。この革鎧は、結果として、重装備だった日本の武士団をさんざん苦しめた」

 ぐい、とセイジは鎧をマツオに押し付けた。

「これをお前に授けよう。もちろん、鉄のように全ての打撃や刃を防げるわけではない。が、もともと動きづらい体型をしているお前にとっては、このうえもない味方になることだろう」


 聞いているうちに、すでにマツオの目は涙目だ。

「そこまで・・・。そこまで僕のこと、考えてくれてたんですね・・・」


 優しい目でうなずいてセイジはマツオに応えたが、すぐに鋭い眼光に戻った。

「ワタルを、守れ。そして、お前も、生きて帰れ。いいな」

 マツオの肩にぎゅっ、と手を置くセイジの言葉に、マツオは溢れ出す涙を腕でぬぐうしかなかった。


 


 その後、なかなか泣き止まないマツオをなだめながら、僕らは、アンドロイドの敵の数に応じた動き方、弱点である喉を突く実戦上のコツについてセイジのアドバイスを聞きながら、ミコの常世観との連携訓練を繰り返した。


「相手がこう来たら、私は相手の顔を、こう弾き飛ばす。そしてその後、タケシ君が剣で急所を突く。これだと、アンドロイドは左に流れて倒れるだろうから、後ろのマツオ君とワタル君を守れるよね」

 いつもはとにかく相性の悪いミコだが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。けど、慣れないもんだから、ギクシャクすることこのうえもない・・・。


「ちょっと、俺、トイレ、行ってくるわ」

「なになに? タイミング悪すぎない? 一番大事な連携のとこでしょ?」

「ワリィ、自然現象!」

「ったく・・・」

 ぶつぶつ言うミコをあとにして、僕は、息抜きも兼ねて、教室を出て、一番近いトイレに向かった。


 が? 


 なぜか、トイレの先にある、校舎の2階に上がる階段の踊り場の方から、誰かが口論する声が聞こえてきた!

 いったい誰が?


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